官僚は本当に働き者か

ドクターZは知っている
(現代ビジネス2011年02月02日)http://p.tl/f2PF

 霞が関の残業の多さは凄いらしい。見かねた細川律夫厚労相が省発足10周年の挨拶で、「結婚記念日や奥さんの誕生日に有給休暇を取るように」と訓示。同省職員の'09年度有給休暇取得は平均10・2日で中央官庁全体の11・4日より少ない。

 一方、野田佳彦財務相は年頭の挨拶で、「平日にデートのできる財務省を」との菅直人財務相時代の目標を取り下げ、「とことん日本再生のために働いてほしい」と訴えた。

 中央官庁の役人はさぞや働き者揃いなのだろうと思うかもしれないが、役人の残業の実態は実はよくわからない。深夜に車で官庁街を通ると、ビルのほとんどに明かりがついている。

 確かに残業はしているようだが、まさか職員全員が残っているわけではあるまい。民間の感覚なら一部の人の残業のためにフロア全体の電灯をつけることなど絶対にしないが、霞が関にはそんな意識はないようだ。

 なかには残業が月に200時間を超える猛者もいる。土日に休んでいるなら、1日に約9時間も残業している計算になり、まずあり得ない。財務省には簡易宿泊施設もあるから、そこに寝泊まりする財務官僚もいるだろう。寝ている時間も残業時間にカウントしているのかもしれない。

 そもそも、本当に働いているかどうかも怪しい。霞が関の役人たちの出勤時間の遅さは有名で、10時を過ぎても出勤してこない人が珍しくない。加えて異常に長いランチタイム。2時間ぐらいとる人はザラだ。いずれにせよ、民間企業では考えられない勤務実態であることは確かだ。

 では、優秀とされる霞が関の役人がなぜそんなに残業するのか。しばしば指摘されるのは、国会での質問待機時間だ。

 国会での質疑は、前日に質問が通告され、それに対して官僚が答弁を書き、それを大臣が読む、という段取りになっている。通常、答弁を書くのは課長や課長補佐たちで、局長などの了解を得てから大臣秘書官に渡される。質問通告が夕方から夜になれば、必然的に残業になるわけだ。

 もっとも、国会答弁を書くのはそう難しくない。国会質疑を聞いていればわかるが、政府答弁は答えたようなそぶりを見せるだけで肝心なところは答えないからだ。更迭された柳田稔前法相が言っていたように、決まったパターンをいくつか覚えておけば、たいがいの質問には対応できるのだ。

 余談だが、野党時代の菅直人氏は質問通告が遅いことで有名で、深夜になるのもしばしばだった。総理になってからはそんな"前科"を棚に上げて、24時間前に通告せよと言っている。笑止千万だ。

 ともあれ、答弁準備をしなければならない国会開会中はわかるとしても、恒常的に残業が多い理由にならない。本当は、いっぱい仕事をしていると見せかけたいだけのことだ。

 民間企業なら営業成績などの客観的な指標があるので、残業の多さは無能の証明にしかならない。ところが、役人には能力を測る適切な指標がない。学生時代は試験という客観的な指標でデキる奴と評価を受けてきたが、役人になってからは残業の多さで競っているのだ。

 ちなみに、税金の増差額(調査による税収の増加差額)という客観的な指標のある税務署職員は、同じ公務員でも残業時間の多寡を競わない。

 経費削減のためにも、いっぺん官庁ビルの明かりを強制的に消してみたらいい。おそらく仕事の出来不出来は変わらないだろう。