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速報874号 エジプトの若者からのメッセージ
2011-1-31 1:43:21

◎エジプトにてベルリンの壁崩壊の再現なるか

ニュースでご覧の通り、エジプトで現在、政治の正常化を求める市民の気運が大きく高まっています。ベルリンの壁が崩壊した時に似て、現在、私たちは草の根からの革命を目撃しているのかも知れません。

エジプトでは、約30年前、時の大統領のサーダートが殺され、非常事態が宣言され、当時、副大統領だったムバーラクが大統領になりました。以来今日まで、非常事態宣言は解除されていません。つまり、非常事態が 30年継続していて、その中で、大統領が自分に都合のいいように法を作り変えている状態が続いています。エジプトは、アラブの大義を裏切って、イスラエルと単独和平を結んだ結果、アラブ連盟から追放されましたが、そんなエジプト、つまりはムバーラク大統領の独裁制を、アメリカが全面的に援助してきました。そして、それに反対するエジプト人民の声や運動はずっと抑圧、弾圧されてきています。

本速報では「エジプトの一青年」と名乗る匿名の人物によるブログへの寄稿を邦訳して紹介します。これは、ブログサイトとして英語圏で最大手の一つ、blogspot.com に 2011年1月27日に投稿されたものです。

同筆者からの投稿は、これ限り、すなわちこの文章を投稿するためにブログのアカウントを取得して発表したものと見受けられます。

そういう意味では、この投稿者が本当に現地人かどうかを確認する術はありません。1/27頃以降、エジプトからのインターネット接続が政府によって禁止された現状ではなおさらのことです。一方、エジプトでの反政府的な言動への弾圧の歴史を考えると、一市民が実名でこのような文章を発表するには決死の覚悟が必要なことは自明ですから、現実問題として匿名投稿になるのはむしろ当然、ある意味で真実味がある、とも言えます。

このブログ投稿は、世界に静かに広がっているようです。投稿の内容が真に迫っていて、かつ簡潔ながらよく練られた文章になっています。私ども TUP(有志)の心を打つものがありました。実際、文章で触れられている基本的な事実関係のうち確認できる部分は TUP有志で確認して、問題ないことを確かめました。無論、現地からの声である以上、確認できない部分が多いことはいたしかたありませんし、だからこそ価値があるとも言えます。

以下、同ブログ投稿を邦訳して、皆さんと共有します。

エジプト市民に近く自由と平安とが訪れることを強く願います。

〔前書: 坂野正明/TUP管理人、邦訳: 山崎久隆/TUP、TUP有志〕
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※凡例: (原注) [訳注]


2011年1月27日 木曜日
世界への手紙

みなさん、

今日、私は皆様に、エジプトで本当はいったい何が起きているかを知らせたくて手紙を書いています。1月25日に火が付いたデモは、自分にふさわしい人生を送る権利を求める国内の青年たちによって組織されました。大統領を含む政府はそれを否定し、ムスリム同胞団のような反政府組織が行った行為だと主張しています。でも、いいですか、これはどこかの対立党派の行動ではありません。社会全体の行動です。理由は以下の通りです。


ホスニー・ムバーラク(今年83歳)は 1981年からエジプト大統領でした。それがいったいどのようなものか、私たちの身になって想像してみてください。ムバーラクは私と私の友人誰もが生まれる何年も前から大統領でした。私が小学生のときも、中学・高校のときも、大学生のときも、結婚したときも息子が生まれたときも、ムバーラクはずっと大統領でした。単にムバーラクだけが「私の人生まるごと」と同じあいだ大統領だっただけではなく、取り巻き連中までみなそうだったのです。アフマド・ファトヒー・スルール(今年79歳)は 1986年から大臣で、1990年からの 21年間ずっと議会の指導者[人民議会(下院)議長]でした。サフワト・エル=シャリーフ[現上院議長]は 1980年代から、他の者たちもみな、私たちが生まれる前から政府の中枢にいて、いまでもその地位にとどまったままです。


国の状態はどこもかしこも、ほとんどの人にとって悪化の一途をたどっていました。教育、報道、経済などすべてが間違った方向に向かっており、私たちが生まれたとき以来ずっとそうでした。一般のエジプト人がどんな生活をしているかにかかわらず、政府は独占企業がもっと利益を上げられるように「改革」してきました。それと同時に、1981年からずっと「非常事態宣言」が機能していて、必要と見なされれば誰でも、国家安全保障上の理由により裁判抜きで身柄を拘束することが認められてきたのです。さらに、選挙では不正が行われ、そのうえで、なお真実の声を発表するどのような表現形式を認めることさえ拒否しています。大学の学生組合の選挙にまで不正が行われ、骨の髄まで堕落しきっています! ありとあらゆる分野の指導者たち、知事、大学長、工場長さえもが現役か退役した将軍です。社会のあらゆるレベルでの腐敗はいうまでもありません。失業率は、特に若者の間であまりに高く、また貧困が蔓延して国民の半分以上が貧困ライン以下で暮らしています。ほかにもまだ、ここに書き切れないたくさんのことがあります。


けれど、いまこそチェンジの時です! 私たちは今までずっと警察や治安当局を恐れていました。裁判なしで私たちを拘禁し、拷問しても殺しても問題にならないことを知っていたからです。でも、もうたくさんだ! 私たちは待って、待って、いつかは正されると30年間むなしく待ちました。この前の議会選挙では、かつてない規模の不正が行われ、ムバーラクにさらに一期――あと 6年間か、あるいはかれが死ぬまで――大統領の任期を与えるお膳立てがされました。私たちは可能な限り平和的な手段をとろうとしましたが、自由声明に署名することさえ追放の理由とされ、追及されました。私たちに選択の余地はなかった。より良く生きること、子どもたちのためにより良い人生を用意することは、私たちの権利です。


だまされてはいけません。人々を動かしているのはどこかの野党やイスラーム主義者ではありません。社会全体が、なかでも特に私たち若者が動いているのです。私たちは平和的にデモをしていますが、政府はごろつきや悪党を雇って抗議者のあいだに潜入させ、問題を引き起こさせて、それをわたしたちのせいにしようとしています。政府は容赦なく私たちを叩き、ネットやメディアを検閲し、ほんものの銃弾やゴム弾、催涙ガスで攻撃し、何百という抗議者を拘禁したり多くの人たちを殺傷しています。これは本物の戦いで、しかしほとんど一方的な戦いです。私たちは警官が同胞であることを知っています。ただ「命令に従っているだけ」です。私たちはできる限り、どんな場合においても警官たちを傷つけるのを避けています。


親愛なるアメリカの仲間のみなさん


あなたがたの政府は30年にわたり、ムバーラク大統領に最大の支援を提供してきました。武器と催涙ガスで国家安全保障体制を支えています。米政府は、私たちの国に毎年 16億ドルに及ぶ資金を与えていて、それは腐敗したエジプト政府の中で主にさまざまな形の賄賂として使われています。あなたがたの「民主的な」祖国はイスラーム主義者を恐れるあまり、我々の政府を支援しています。いいですか、怖いものなどないんです。イスラーム主義者についてのあなたがたの見解は事実に反し、間違いだらけですが、その話はまた後日。私たちのリーダーを選ぶことは私たち自身の権利であるという一点において、あなたがたの支援を望みます。私たちを支援し、上院議員や下院議員にエジプト政府を支援するのをやめるように言ってください。私たちを支援し、自由はパンよりも重要である と世界に伝えてください。私たちを支援し、30年続いている政府を追放するのを手伝ってください。もしもあなたの孫たちが、いまと同じ支配者を目撃するとしたら、あなたがどのように感じるかをぜひ想像してください!


親愛なるヨーロッパの仲間の皆さん


あなたがたのリーダーはエジプトの状況を気にかけています。ムバーラクが腐敗していることを知っていて、それゆえに心配しています。わたしたちがひどい圧政の下にいることを知っていて、その状態が続くことを望んでいます。あなたがたのリーダーは、ローマ時代から、英国による最後の植民地支配が終わるまでずっと、エジプトを監視していました。けれども、自分たちの国を治め、自由がどれほど貴重であるかを自分たちの子どもに教えるのは、私たちの権利です。リーダーと政府を選ぶことは私たちの権利です。そして私たちを支持するのは、あなたがたの人道的責務です。あなたの国のリーダーに対して、私たちを支援すると言ってください。エジプト大使館に行って、あなたの支持を示してください。私たちの大義について人々に話し、そして、私たちが、自分たちの権利、生まれてこのかたずっと抑圧されてきた自分たちの権利を手に入れようとしているだけであることを知らせてください!


親愛なる世界の皆さんへ、


これは、あなたが本当は何者であるかを試される瞬間です。あなた自身の真実の瞬間です。あなたの良心はまだ生きていますか。あるいは、あなたは人間性よりも利害関係を重んじますか? あなた自身の尊厳を証明し、私たちが人間性の回復を要求することを手伝ってくれるでしょうか。それとも、戦車が我々を轢(ひ)くのを、脇に立ってただ見ているだけでしょうか? それはあなたが決めることですが、覚えておいてください。それはあなたが一生抱えていくことになる何かであり、いつかあなたはこの件で子供たちと正面から向き合わなければならないかもしれません。


お声が聞こえるのを楽しみにしています。

エジプトの一青年より









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速報875号 エジプト民衆蜂起ウォッチング@ロンドン
2011-2-1 6:45:42

◎メガリークの衝撃:ロンドンで聞くエジプトの声

米国の生々しい機密外交電文を逐次公開しているウィキリークスの資料ほどに、情報の価値と威力を見せつけた情報が近来あったでしょうか。ツイッターや SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)によって大量の生の情報が瞬時に広がるインターネットのこの新時代には、真に価値ある 情報は誰も予測できないような大きな力で世界に変動をもたらすものだということを、我々は今、リアルタイムで目撃しています。

独裁者や帝国主義国の正体の一端が顕れるやチュニジアの独裁者が逃亡し、エジプトをはじめ中東各地にも影響が波及していて予断を許しません。けれどもこの ように世界が躍動している時に、日本ではその状況がほんのわずかしか伝えられていません。大手メディアは申し合わせたかのように不気味な静けさを保ち、 ウィキリークス情報を黙殺同然にしているかのようです。

ロンドン在住のTUPメンバー藤澤みどりは家事の傍らBBCや、デイリーテレグラフ紙、アルジャジーラなどのもたらすニュースなどから豊富な情報を得て、世界の大変動の始まりに立ち会う実感をブログ 

http://newsfromsw19.seesaa.net/

に綴っています。

この文章がお目にとまるころには情勢はさらに大きく進展しているかも知れませんが、ロンドン生活から切り取った、ある時間帯のナマの声を紹介します。

(本文:藤澤みどり、前書き:藤谷英男/TUP)



下記は、わたしが先週末(1月29日30日)、自分のブログに書いた日記だ。コピーしてTUPのMLに流したところ、速報の読者とも共有したほうがいいのではないかとの提案をいただいた。そんないきさつでこれを配信することになったので、ロンドン在住のひとりのニュースフリークの日記として読んでいただけたらうれしい。

仕事机が居間にもあるので、家で仕事をしているとき、わたしはテレビを付けっぱなしにしていることが多い。無料で視聴できるBBCニュース24を中心にしてたまにSKYニュース、重要案件が議題に上がったときは議会チャンネルを、ロシアで事件があったときはロシア・トゥデイにチャンネルを合わせる。CNN とイングリッシュ・アルジャジーラは無料視聴可能時間(1日数時間ずつ)にアメリカと中東のニュースが知りたいときにつける。

自分のブログをつけていて、不定期に読みに行くいくつかのブログがあるが、フェイスブックにはアカウントを開けておらず、ツイッターも始めていない。テレビや新聞には出てこないもっとフレッシュで、もっとディープな情報があるのは明らかで、ものすごく心惹かれるが、とても情報を処理し切れそうにないのでいまのところ手を出さずにいる。

というわけで、わたしのウォッチングはイギリスのテレビ視聴者なら誰でも可能な手段しか使っていない。もちろん一日中ニュースを見ている人はそう多くはないだろうけど。(藤澤みどり)



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<第1信>

1月29日土曜日14時50分GMT (日本標準時23時50分)



革命なう@エジプト第5日



さて、いよいよ民衆蜂起が市民革命に姿を変えるのか、の瀬戸際にあるらしいカイロ。とは言え、昨日のテレグラフ特報をどう読み解いていいのかわからず、頭痛だわ。

あとでテレグラフ買ってこよう。ネットに上がっている以上の情報があるような気はあまりしないんですが。

さっきアイロンがけしながら聞いていたBBC24の内容など手短に書きます。

結局夕べは外出禁止が敷かれてもカイロの路上からはプロテスターの影は消えず、それどころかあっちこっちで火の手が上がり、根負けした(?)ムバーラクがテレビでスピーチ。わしは次の大統領選(11月)には出ない、息子も出さん、現内閣は残らず今日辞めさせて新しく作る、とかなんとか言ったんですが、そんな内閣は今の内閣のクローンに過ぎない(引用)、そんな空約束にだまされるか(引用)ってことででだれも説得されていません。

そこにテレグラフのリーク[註1]。う~ん、どういうことだ。つまり、この民衆蜂起はアメリカが3年前に仕込んだってこと? あまり面白いストーリーじゃないが、これをいま出したってことはウィキリークスに何か意図があるのでしょう。考えられることは、蜂起している側に「よし、そのまま行け。ムバーラクの手は縛る」とお墨付きを与えたったことかな。

[註1]米国が2008年からエジプトの議会制への体制変革を目指す反体制運動のリーダーを支援していたという、ウィキリークスのリークと、

http://wikileaks.ch/cable/2008/12/08CAIRO2572.html

その内容を伝えた記事

http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/africaandindianocean/egypt/8289686/Egypt-protests-Americas-secret-backing-for-rebel-leaders-behind-uprising.html



(>後述 そうじゃないな、なにしろいまエジプトはインターネット・ブラックアウトだ。つまり、これはムバーラクへの最後通牒だ。15.00BMT)

で、その次に出てきたのがオバーマのスピーチ。大きい話をさせるとこの男はうまい。

直接ムバーラクに退陣を迫ったわけではないが、はるかなる昔に世界のだれにも先駆けて高度な市民社会を築いた者たちの末裔に、それにふさわしい文明(デモクラシー)を与えよとぶち上げた。遠回しに、もう辞めなって言ってないか?



そんなわけで、一晩中燃えさかって、朝になってプロテスト5日目が始まった。

昨日はハウスアレストになっていたエルバラダイへのBBCのインタビュー(シチュエーションの詳細不明)によると、昨日までのプロテストに投入されていた警察、機動隊に代わって、今日からはプロテスト平定のために軍隊が導入された。(後述>昨日から導入されてた。昨日は警察と併用)だから、これからはプロテストのために表に出る群衆はもっと大きくなるだろう。聞き違えではないです。そう言った。なぜなら、伝統的にエジプトでは軍は民衆に銃を向けないことをだれもが知っているからだ、と。

これは昨日、知人のアラビストにも聞いていたので意外ではなかった。エジプトは徴兵制が敷かれているので、プロテストする側も軍服を着ている側も、いまのいま立場が違うだけで、軍服を脱げば中身は同じ立場の人間だからとのこと。

エルバラダイは、いますぐに退陣しろとムバーラクにせまる。夕べはムバーラクの退陣スピーチが聞けるとみな期待していたのに、あの空っぽのスピーチはなんだ。エジプト人の知性を見くびるな、と。



BBCニュースキャスターのギャビンが提出した質問がわたしも気になるところ。つまり、もし、無血(正確にはそうじゃないけど、ほとんど)革命が成功してムバーラクが退陣したとすれば、すぐにも選挙が行われる。で、その選挙でアメリカが望まない政党が勝利したらどうなるのか。つまり、パレスチナにおけるハマスのように。で、この場合はムスリム同胞団のことだろう。

カイロは拡大された外出禁止令により、すでに午後4時から外出禁止に入っている(GMTより2時間先)。が、橋の上に配置された数台の戦車と、そのまわりを行き交う大勢の人々が映っている。一説によれば、まだ数千人が路上に出ているらしい。

そしてこれだけのことが、フェイスブックもツイッターもインターネットそのものも携帯電話もテキストメッセージも電話そのもの何もないところで起きている。



イギリスなう> トレードユニオン主催の数千人規模のデモがロンドンとマンチェスターで実施されている。学生のユニオンが合流している。

イギリスなう> 火急の用事なくばエジプトへの旅行は控えるようにとのお達しがでる。

それを受けて、カイロに向けて飛行中だったBMIの定期便が途中でヒースローに引き返した。また、英国航空のチャーター便がエジプトに向けて飛び立った。脱出したい人は「だれでも」乗せると言っているので、外国人でも大丈夫じゃないか。イスラエルによるレバノン攻撃のときは助けにいったイギリス海軍の軍艦がイギリス人しか拾わず、国際結婚家族が引き裂かれる場面もあったが。いま、エジプトには3万人のイギリス人観光客がいるらしい。

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<第2信>

1月29日土曜日23時50分GMT (日本時間30日8時50分)

6時からはアルジャジーラ・イングリッシュ。午後11時までの放送なのでもうすぐ終わる。

息子の友達が夕方から遊びに来ているので放っておくわけにもいかずに夕食のしたくなどしていた。今夜はスリープオーバー。

夕食は3人でアルジャジーラを見ながらというまことにポリティカルなものになった。

「アラビア語じゃないね」と言うので「アルジャジーラ・イングリッシュだからねえ」と言いつつ、6時から11時までは無料視聴時間と説明。

これは89年と同じぐらい大きな歴史の転換点になる可能性があるからよく見ておきなさいというと、ちょうどいま冷戦について学習中の息子は憶えたてほやほやの知識を披露してくれる。ジャーマンの壁だよね。そうそうベルリンの壁が倒れたとき、そうだよ、それからチェコとかルーマニアとかハンガリーとかポーランドとかばたばたいっちゃってさあ。あ、それはみんなソ連の衛星国だよね。半年ぐらいのあいだにソ連は中欧のお友達を根こそぎなくしちゃって、2年後には自分も壊れちゃったんだよ。

今日の献立は巨大な鉢いっぱいのレタスとツナのサラダ(オリーブオイルとホットチリと醤油のドレッシング)、タイチキンカレー、パクチョイ(青梗菜)とビーフのオイスターソース炒め、キュウリの塩昆布漬け、ごはん。甘くないアルコールを飲んでみたいというのでカンパリソーダ、わたしはギネス。

エジプトが引っ繰り返ったら、きっとベルリンウォールぐらいのインパクトがあるから、そのあとばたばたいくかもしれない。イエメンがもう燃え始めてるし、ヨルダン、レバノン、もしかしたらサウジまでいっちゃうかも。そうしたらアメリカは中東のお友達を根こそぎなくしちゃうことになって、89年のときにソ連から得たものよりずっとたくさん失うかも。石油が出るしさ~。

そうなれば(このあたりで子どもたちは自室へ去る)、パレスチナ・ペーパーズの流出[註2]で袋小路に入ったきりにっちもさっちもいかなくなってたパレスチナ情勢にも動きがあるだろう。アメリカが中東での覇権を失えば、イスラエルはいままで通りにはいかない。ハマスはタリバンみたいに世間知らずじゃないから、きっとうまくやれるだろう。

[註2]アルジャジーラが設けたウィキリークスタイプの内部告発窓口に投じられた情報で、先週初頭からアルジャジーラと英ガーディアン紙のウェブサイトで順次公開が始まっている。イスラエルとパレスチナ(PLO/ファタハ)との交渉に伴って作成された約10年分の書類が含まれ、二国家が成立した場合、パレスチナ領土となるはずであった東エルサレムの多くの土地がイスラエル領となることをPLO側が了承していた事実など、表向きの交渉とは大きく異なる裏の事情が明らかになりつつある。PLO側の交渉能力の低さについてはサイードが生前から指摘していたが、それがあからさまになった恰好で、代表の裏切りに対し、パレスチナ人社会には怒りと失望が広がっている。

ガーディアン紙の「パレスチナ・ペーパーズ」ページ

http://www.guardian.co.uk/world/series/palestine-papers-documents



息子の友達は、イースターの休みに息子もいっしょに紅海に旅行に行っていいかと聞くが、ほんとに独裁者亡命ドミノが起きたら、イースターの頃はまだどっか燃えてるんじゃないの? 紅海ならイスラエルだからもろ危なくないか?

まあ、それについてはあとで考えよう。



カイロ中心部の解放広場に人が集まっていた。大きなロータリーみたいなものがあり、それをずいぶん高いビルの上から写した映像。最初に見たのは7時ぐらいで(現地時間9時)、その後30分ごとぐらいにそのライブ映像を見せてくれるんだけど、見るたびに人の数が増えていて、23時ちょっと前(現地時刻午前1 時)、アルジャジーラの無料視聴時間が終わるころには、まるでお祭りに集まる群衆のように多くの人がいた。

警察が街からすっかり姿を消し、国中で略奪が始まった。放火もあちこちで。国立博物館も襲われていた。だれが襲っているのかはわからない。捕まった人も見せてたけど、顔見たからってどういうバックグラウンドかわかるわけではない。アルジャジーラで紹介していたツイッターに、チュニジアのときと同じだ、略奪者がわざと街に放たれているといったものがあった。

戦車の上から軍人(たぶん、小隊長クラス)が周囲をぎっしり埋め尽くす群衆に叫んでいる。どうか若い人たち、自分の家の近くをみんなで守ってくれ、わたしも軍服を脱いでギャングから街を守ることにする。

どうか、自分の家と家族と国を守ってくれ。

それに答えて若者たち、男たち、少年たちが、自警団を作り、あちこちに検問所を作り、自分たちの手で自分たちの街の安全を守っている。夜間外出禁止なんてもうだれも気にかけていない。

それにしても英語がうまいんでたまげるなあ。だれもかれもが流暢というわけではないけれど、マイクを向けられれば、いま何が起きていて、自分たちが欲しいものは何で、そのためには何が起きればいいとかいったことについてたいへん雄弁だ。


23.50PM GMT


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<第3信>

2011年01月30日日曜日22時00分GMT(日本時間31日7時00分)



革命なう@エジプト第6日



夜間外出禁止令が解けるとすぐに第6日のプロテストが始まった。いい天気だ。女性の姿もけっこう見られる。

カイロの上空をジェット戦闘機が2機低空飛行し、他に軍用ヘリコプターも飛んでいる。カイロからの特派員の報告が、ジェット戦闘機の爆音で聞こえなくなることがある。ちょっと前にムバーラクが軍司令部を訪問したというし、何か関係があるのか。徴兵制なので兵士と民衆のあいだの垣根が低く、友好的で、実際にそのような場面がいくつも報道されているが、ムバーラクが軍隊出身だけにやはりトップやエリートなど司令官クラスは一般兵卒とは違うだろう。心配だ。天安門は見たくない。

(後述> 人々が集まる広場の上空の非常に低い位置を戦闘機が通過するとき、人々は空を見上げて不安そうにしている、と報告するレポーターがいる一方で、自らその群衆の一員となっているエジプト系イギリス人の作家(女性)は、確かに不安そうにはしているけれど怖がってはいないとBBC24のインタビューに答える。エジプトの人々のこのような怖がらない姿はかつて見たことがないと。集会そのものが禁じられていたエジプトでは、野外の目立つ場所に大人数で集まることだけでもものすごい勇気がいる行為だから)



周囲のアラブ諸国のリーダーたちは反乱の伝染を恐れていて、特にイスラエルでは不安が広がっているとのこと。最も避けたい展開は、ムバラクが退陣し(今回でなくても11月には去るはずで)、そのパワーの空白にムスリム同胞団が入ること。ムスリム同胞団はガザを実効支配する(実際のところ、パレスチナの総選挙で勝利した)ハマスに近しい。

これはアメリカにとっても最悪のシナリオ。そもそもムバーラクがいなくなると、アメリカが描く中東和平のロードマップは成り立たなくなる。

昨日の新リーダー(首相と、30年ぶりの副大統領)の任命に続いて、首相がいま新内閣を組閣中とのこと。でも新味のある顔ぶれが出てくる可能性は低く、いずれにせよ、ムバーラクが去るまで人々は納得しないのではないか(するわけないよな~)。

(後述> サンデイタイムス紙が政府中枢からの情報として伝えるところでは、今回30年ぶりに復活した副大統領の任に就いたばかりのオマル・スレイマン将軍と、防衛大臣[前の大臣ということだと思います、組閣前なので] のモハメド・タンターウィー 野戦司令官[元帥クラスか] が、現在の混乱を沈静化させるために権力の座から退くべきだとムバーラクを諭しているとのこと。この2名はエジプト陸軍の最高位の軍人)[註3]

[註3]タイムスの記事は無料公開されていません。ウェブサイトは以下の通りです。

http://www.thetimes.co.uk/tto/news/?CMP=KNGvccp1-times



カイロでは携帯電話の回線の一部とインターネットの一部が回復したとのこと。ウィキリークスは、今現在のインターネット不通状況を受けて、例のテレグラフ特報を含む流出公電をファックスでエジプトに送っているとか。どこに送っているのかは知らない。

アルジャジーラは当局によって活動を止められているらしい。夕べ、アルジャジーラ・イングリッシュはモルグを取材していた。血に染まったシーツをかぶせられた死体が何体も運び込まれていて、モルグの外では家族が泣き叫んでいた。そのモルグに運び込まれていた死体は警官に殺された人がほとんどのようだった。



ホリデイメーカー(休暇旅行者)の脱出は進んでいない。エジプト当局が夜間外出禁止令を恣意的に変更したので、チャーター便の帰りの離陸のタイミングを逃したりしているようだ。今現在、カーフュー(外出禁止)は午後4時から朝8時(1日の2/3)に適用されていて、その時間帯には離着陸ができなくなる。

昨日のニュースでカイロの空港にたどり着いた年配のイギリス人女性が、エジプトの市民のみなさんにはとても共感するし、かれらの境遇が改善されるように願っている。でも、昨日のデモの投石はちょっと怖かったわ、と言っていた。今の時期、学齢期の子どものいるイギリスの家庭はホリデイには行けないので、ホリデイメーカーは年配の方か小さい子ども連れが多い。



15.40 BMT

アイルランドなう> ブラッディサンデイ(血の日曜日)の30周年マーチが行われている。

日曜日。マーチは今年で最後になる予定とのこと。

***

夜間外出禁止の時刻を過ぎても人々は立ち去らない。モハメド・エルバラダイがムバーラクに辞職を促すスピーチをする予定のタハリール広場には、続々と人が集まってきている。子連れも多く、休日の夜の散歩のようだとレポーターが言う。

国連はムバーラクに対し、プロテスターに譲歩するよう呼びかけた。

だが、ヒラリーのインタビューを聞くと、彼女はまだまったくムバーラク後のエジプトは想定していないみたいだ。

オバマもプロテスターの声に耳を傾けろと言い、インターネットと携帯電話はいまや最低限の文化的生活の一部だと(いうような意味のこと、正確に覚えてないですが)言って、それを禁止することの愚を説いてはいたんだけど、やっぱりムバーラクがリーダーであり続けることを前提として話していた気がする(昨日のスピーチ)。そうなると、アメリカの立場はなんだろ?

ムバーラクが退陣した場合、いまの調子で進めばエルバラダイが暫定リーダーになって、できるだけ早く普通選挙を実施するだろう。そうなるのがいつのなのか判断はできないが、今夜のカイロのデモクラシーの盛り上がりかたを見ていると、実現されるとすればそう遠くではないように見える。

もしそうなら、アメリカはそろそろ方向を切り替えておかないとまずくない? そのわりに、そういうポーズが見えない。そうならない(ムバーラクが退陣せずともいまの危機が解決する)という確信(裏付け)でもあるのだろうか。それとも状況を見誤っているのか。



16.30 GMT



今日、エルバラダイが大群衆の前でムバーラクに引導を渡した広場、タハリール広場は昨日、アルジャジーラ・イングリッシュが解放広場(Liberation Square)と呼んでいた場所と同じ場所のように見える。カイロの中心部にある。今日はアルジャジーラもそう呼んでいる。広場にはいまも(現地時間は 31日の午前零時)たくさんの人がいる。

アルジャジーラは活動を制限されたということだったんですけど、新しい映像も入れて放送してるぜ。人々への取材ができなくなったのかしら。



ムバーラクの息子(ムバーラクが後継に予定していた息子カマル)が、妻と娘を連れてロンドンにいるらしい。プライベートジェットでロンドンに飛んだとどっかの放送局が報じたそうだ(水曜日)。ナイツブリッジの高級住宅街にかれのロンドン別邸があり、その近所で張り込んでいたカメラマンが嫁の車を見かけたそうだ。かれはロンドンで長く暮らしていたことがあり、知人も多く地理その他にも明るいとか。

脱出? 亡命先候補? とーちゃんも来るの? ちょっといやかも。でもありそうだなあ。チュニジアのベンアリを追ってサウジに行ったところで、そこがどのぐらいもつかわからないものね。

今日の放送からBBCは警察官は逃亡した(run away)と言うようになった。昨日までは消えた/姿が見えなくなった(disappeared)だった気がするんですが。

ロンドンなう> メイフェアのエジプト大使館前のプロテストは今日で3日目。昨日はトレードユニオンとスチューデントユニオンのデモが、ここのプロテストに合流したらしい。

22.00GMT