菅政権はなぜこれほど不人気なのか (日刊ゲンダイ2011/2/3)

内閣支持率止めどなく低下

菅首相の支持率が低空飛行を続けている。自民党政権時代に「危険水域」といわれた40%には遠く及ばず、20%台をウロウロするのがやっと。最近は、失言や公明党に袖にされる様が、支持率1ケタとなり辞職した森元首相に似てきているともっぱらだ。

厚生大臣のとき、菅はヒーローになった。薬害エイズ問題で、行政側の過失を裏付ける証拠ファイルを発見し、喝采を浴びた。プロジェクトチームを組み、官僚を怒鳴り散らしてやり遂げた実行力が認められたのである。

当時から、「過大評価だ」との声は聞かれた。手柄を上げたのは菅個人ではなくチームだし、そもそも薬害エイズ問題に関心を持つようになったのは、伸子夫人にせっつかれたからで、本人はイヤイヤ取り組んでいたという話もある。菅への賛美は度が過ぎたものだったのだ。

それでもマスコミは、化けの皮がはがれた菅を持ち上げる。菅政権が唱える「熟議」とやらを後押しし、「いいぞ、いいぞ」と猛プッシュだ。批判されるのは、与野党協議のテーブルに着こうとしない自民党。争点も明確にならないまま、国会の冒頭から解散を迫るのはおかしいというわけである。
小沢報道と比べるとエコヒイキはより際立つ。小沢は、収支報告書の記載時期が違っただけで「ダーティーな政治家」というレッテルを貼られた。確たる証拠もないのに、悪の権化のように批判されてきた。

ところが、菅に対してはおうようだ。「国債の格付けに疎いので」とバカ丸出しの発言をしても、さして攻撃しない。「TPP」を「IPP」と言い間違えても、「方向性は正しい」と応援だ。
だが、これほどマスコミの援護射撃を受けているのに、国民は菅を認めていない。この政権は、以下の5つの理由で、民主党らしさを失っているからだ。

◆マニフェストの公約をやらず、余計なことばかりしているから

国民が民主党に政権を託そうと思ったのは、マニフェストの理念に共感したのが大きい。09年衆院選のマニフェストで、民主党は「国民の生活が第一」を掲げて、官僚主導の政治体制を根底から覆そうとした。
自民党のデタラメ政治にうんざりしていた国民は、「それならやらせてみよう」と一票を投じたのだ。

それが、どうなったか。鳩山前首相は「4年間かけて実行する」として、マニフェスト実現に取り組む姿勢を見せていたが、菅はアサッテの方向を向いてしまった。政治評論家の山口朝雄氏が言う。
「民主党は、天下り団体を太らせる自民党型の間接給付をやめ、困った人たちのフトコロをダイレクトに潤す直接給付への転換を掲げていました。しかし、菅首相は、国民イジメの消費税増税に本腰を入れている。給付には及び腰で、搾取には目の色を変えて取り組んでいるのです」
まるでアベコベだ。法大教授の五十嵐仁氏(政治学)も、「消費税率5%などで国民に9兆円の負担増を強いた橋本政権は、失われた10年を20年にしました。菅首相の消費税増税は、それを30年、50年にする危険性が大きい」と警告した。こんな政権を国民が支持するわけがない。

◆公約を実行するための方法を考えず妥協ばかり考えているから

民主党は、特別会計も含めて大胆に予算を組み替えると主張してきた。予算編成では、最初にマニフェスト分を積み上げて、残ったカネをほかの政策に回す。これなら財政は痛まない。そんな考えだった。
むろん、権益を奪われる人たちは命懸けで抵抗する。だが、それを説得し、ひとつずつ潰していくのが、政治家の仕事。対立する利害を調整し、政策を実現していくのが腕の見せどころだ。

しかし、菅は不思議な政治家である。経験と知識をフル回転させる舞台が整っているのに、まったく汗をかこうとしない。障害があれば、むしろ公約の方を引っ込める。妥協することばかりを考えているのだ。
「菅首相は口でごまかせると思っているのかもしれません。なにしろ、マニフェストの7割は実行していると強弁するのです。現実には、ちょっと手を付けてみたのが7割ぐらいある、というレベルですが、ムキになって成果を訴える。デタラメにもほどがあります」(政治評論家・有馬晴海氏)
利害調整ができないのなら、野党を引っ張り込み、無理やりでも予算関連法案を成立させればいい。予算に関与できるのは与党の強みだ。目の前にぶら下げれば、ホイホイと応じるのも出てきておかしくない。

ところが菅は、そんな政界工作も中途半端な状態で投げ出した。
「衆院で再可決が可能になる3分の2の勢力を確保するために、社民、自民、公明、たちあがれと見境なく話を持ちかけましたが、すべて場当たり的。本気で共闘を呼びかけるのなら、大義名分が必要だし、それには水面下で政策合意に向けた話し合いを行わなければならない。そんな努力すらしない政権とだれが組めますか」(政治評論家・浅川博忠氏)
8年前に民主党の代表だった菅は、国会で、国債発行30兆円枠などの公約について「守られていない」と小泉首相を追及した。「公約破りは大したことではない」との答弁を引き出すと、勝ち誇ったかのように振る舞った。その菅がいま、何の努力もせずに公約を放棄するのだから、国民は唖然呆然だ。

◆政権維持が第一の目的で政策の実行には右顧左眄しているから

「市民派から総理になる」――。本当に菅の夢はこれだけだったのだろう。しかも、「総理になった今は、鳩山よりも一日でも長くやることが目的になっている」(民主党関係者)という。だから、政策に対するこだわりがない。自分たちの理念をギュッと詰め込んだはずの予算案ですら、最初から修正をにおわすのだ。こうなると、本気で予算を通す気があるのかどうかも、怪しくなってくる。
「予算案は、すでに閣議決定しています。それを簡単にひっくり返すのだとすれば、民主党が政権を担う意味はありません。今すぐ下野しろ、ということになる」(有馬晴海氏=前出)

せっかく与党になったのだ。まずは自分たちでつくった予算案を通して、国民にアピールするのが筋だろう。ところが菅は、あっちにフラフラ、こっちにフラフラと頼りない。
子ども手当は「検証の対象にする」と見直しの構えだし、ガソリン税の暫定税率廃止も「事実上進んでいない」とお手上げの状態。高速道路の無料化だって、どうなるか分からない。

政策を通すために政権を奪ったはずなのに、政権を維持するために政策を捨てるのだ。こんなデタラメはない。
「菅首相は保身しか考えてません。火中の栗を拾おうとしないのも、そのため。小沢問題の処理は岡田幹事長に押しつけ、尖閣問題は仙谷官房長官(当時)に丸投げ。ノドに刺さった骨のような米軍基地移転問題にしても、沖縄を1回訪問して終わりです。何かを前に進めるよりも、批判されないようにすることが先決なのです」(浅川博忠氏=前出)
「首相失格」の烙印を押されるのも無理はない。

◆与謝野のようなヌエも大臣にして頼っているから
「中曽根大勲位か大手マスコミ、さらに財務省が押し込んだのでしょう」(政治評論家・本澤二郎氏)といわれる与謝野大臣。その存在が、民主党支持者の離反に拍車をかけたのも確実だ。
与謝野といえば、自民党時代にあらゆる大臣をやり、総裁選にも手を挙げた人物。まさに「ミスター自民党」だ。おまけに「民主党が日本経済を破壊する」なんて著書まである。
菅は、そんな人物に頭を下げて入閣させたんだから、「何を考えているんだよ」の声が上がるのも当然だ。
それでも与謝野が民主党マニフェスト実行の決め手になるのなら、許せる。だが、菅が与謝野に託したのは、公約になかった消費税増税だ。バカヤローではないか。経済アナリストの菊池英博氏が言う。
「与謝野氏は案の定、年金改革でも、民主党案をハネつけ、自民党案を持ち込もうとしている。要するに、民主党の公約をズタズタにし、自民党化させるためにスパイとして送り込まれたような人物なのです」
そんなヌエのような大臣を、菅は内閣の司令塔に据え、頼っている。アタマがおかしくなったんじゃないかと、だれもが考えるのは当たり前だ。

◆首相とその側近が思想も信念もなく権力を握っているだけだから

目が落ち込み、いつも眠そうな表情のさえない首相。テレビに映ると、チャンネルを変えられるのも分かる。
首相がショボくても、取り巻きや官房長官がドッシリ迫力があれば、それはそれで安定感が出て内閣は機能するのだが、菅政権の場合、周りでウロチョロするのはちびっ子ギャングのような子ども議員ばかりだ。官房長官の枝野46歳、官房副長官の福山49歳、首相補佐官の寺田34歳、国対委員長の安住49歳……。

政権運営に欠かせない政治信念や思想のカケラも感じさせない。これじゃあ、多くの国民が「大丈夫なのか」「とても政権を任せられない」と、不安を募らせるのも当然だ。しかも菅は、毎晩のようにメシを食う相手が補佐官の寺田である。
「寺田は秋田県知事の息子で、選挙では隣の県の小沢の世話になった。でもボンボン育ちだから、小沢の雑巾がけ教育が嫌で離れ、菅にかわいがられるようになった。今では精神安定剤役の側近議員といわれる。メシの相手に選ばれたのも、総理のグチを聞くのがうまいからです」(官邸事情通)
テレビによく出るのが安住だが、NHK記者出身らしく生意気で仕事はできない。国対委員長に抜擢されたが野党懐柔策を聞いたこともない。テレビでの発言に奥深さがないのも仕方ない。
菅は、フレッシュなのを取り巻きに並べておけば人気が出ると考えたのだろうが、逆に、菅の老いを際立たせているだけ。人気が上がるわけがないのだ。

菅政権は、この5つの理由で支持も期待も集めなくなった。このままでは、4月の統一地方選に向けて攻勢をかけてくる野党に太刀打ちできない。菅内閣は年度内に予算をあげられず、ギブアップだ。政権の無力ぶりをさらせば、国民は離れていく。野党はイケイケドンドンになり、関連法案の成立も阻止するだろう。だが、子ども手当は児童手当に逆戻りとなれば、国中が大混乱だ。それで、また、支持率が低下する悪循環……。この国の政治は破局に向かっている。



※日刊ゲンダイはケータイで月315円で読める。
この貴重な媒体を応援しよう!
http://gendai.net/