武器輸出3原則見直しの裏に「幻の辺野古案」
[とんでもないことになっている日米関係 ~在米ジャーナリスト 平安名純代~]

(日刊ゲンダイ2011/2/4)

普天間移設問題はこれからどこへ向かうのだろう。グアム新基地建設計画の行方が不透明な中、予測は難しいが、ひとつ指摘しておきたいのが、1999年当時、米軍が抱いていた壮大な構想「幻の辺野古案」だ。
米軍普天間飛行場の代替施設案をめぐる協議が始まった当時の、話し合いの中身を示す米中央情報局(CIA)の機密文書がある。文書が作られたのは2000年1月で、それを見ると、陸上、コースタルハイブリッド、杭打ち桟橋工法、メガフロートの4案と並び、米軍にとっての最適案は「移動式海上基地案」とある。

米国防総省筋に詳細を聞いてみた。
「原案が立案されたのは60年代で建設地は辺野古沖を想定したものだった。70年代になって国防高等研究計画局が移動が可能な沖合基地案として研究を開始。湾岸戦争後に国防総省が本腰を入れて検討を開始した。有事の際に、戦地の近くに基地を確保するのは重要だ。基地が国際情勢を大きく左右する。軍事的戦略をスムーズに遂行するために必要なのは、米軍と多国籍軍が共同使用できる滑走路や軍用装備、補給物資などの貯蔵能力を備えた基地だった」
将来、世界のどこが戦地となるかはわからない。海上に移動式の基地を持てば、有事の際に即応できる――こうした米側の意向を受けて、移動式海上基地案は96年頃に米企業3社が本格的に検討を開始した。「コスト高で計画は2001年に中断した」というが、中断にはもうひとつ、理由があった。当時、同案に関わっていた国防総省の元高官はこう語る。
「移動が可能な基地を日本に造った場合、基地は武器とみなされ、武器輸出3原則に抵触する恐れがあった。沖縄近海以外の移動ができないならば造る意味がない。よって同案は必要性を失った」

こうして同案は幻となったのだが、計画は棚上げされただけで消えてはいない。日米間で普天間問題が遅々として進まない一方で、日本国内で集団的自衛権の憲法解釈や武器輸出3原則の見直しの動きが加速化している現状を見ると、こうした案が一時、検討され、今なお、いつでも取り出せるように息づいているのは、果たして偶然なのかと気になってしまう。

◆着々と進む米軍との一体化

政府は、「憲法違反」との批判をかわすために「後方地域」という新たな定義を取り入れ、自衛隊の対米支援の範囲を公海へ拡大する周辺事態法改正の検討に本腰を入れ始めている。「世界規模の米軍配置の見直し」を策定中のゲーツ米国防長官は、訪日した際、中国の脅威に対抗するため、長距離攻撃の強化と兵力分散を掲げ、在日米軍と自衛隊との運用一体化に期待を示した。そうした中、沖縄では共同訓練が本格化している。

ゲーツ長官は、1月に公表した国防予算削減計画で空・海軍を軸に体制を刷新する意欲を示し、冷戦終了後に役割が低下した海兵隊は縮小すると訴えた。しかし、沖縄の海兵隊は縮小されるどころか、2012年から米最新鋭機オスプレイが配備される。米本土でも安全性に疑問が投げかけられている垂直離着陸型の輸送機だ。沖縄県民はまたしても隣り合わせの危険が増えてしまうのだが、そうした悲痛な声は届かない。

安全な生活を願う沖縄県民に背を向け、ひたすら米国追随をエスカレートさせる菅政権がこの先、何をやるかが心配だ。(おわり)




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