腐ったみかんの方程式/小沢に菅に仙谷「そんなに嫌いなら、別れたら」
(週刊現代2/12号)

ぶち抜き大特集
民主党政権
「腐ったみかんの方程式」
内幕ドキュメント
罵り合い、
憎しみ合い、
粛清に血道をあげる
何のために一緒にいるのか
小沢に菅に仙谷
「そんなに嫌いなら、別れたら」

生き残るため、敵は徹底的に潰す。民主党というみかん箱の中に、粛清と排除の論理が渦巻いている。互いに陰で罵りあう、菅、仙谷、そして小沢。憎悪という名の青カビは、あっという間に箱の中に蔓延し、すべてのみかんを腐らせてしまう。こんなものは、誰も食べない。いっそ箱ごと、ひっくり返したほうがいい。

まるで連合赤軍

菅政権の中に、「粛清」の嵐が吹き荒れている。
民主党の小沢グループ中堅議員の一人がこう漏らす。
「これが菅さんや仙谷さんの本性です。自分たちの身が危険に晒(さら)されれば、たとえ仲間でも容赦なく〝総括〟し、粛清する。みんな陰で囁いています。『典型的な左翼の発想じゃないか。まるで連合赤軍みたいだ』って」

39年前の2月―。長野県北佐久郡軽井沢町にあった「浅間山荘」に、連合赤軍のメンバー5人が、管理人の妻を人質に立てこもった。いわゆる「あさま山荘事件」だ。
赤軍メンバーと警察の大部隊との攻防は、2月19日の事件発生以来、10日間に及んだ。日本中の視線が釘付けになったこの事件の詳細について、いまさら語る必要もない。
ただ、当時日本中を震撼させたのは、その後に発覚した、赤軍内部の凄惨な「内ゲバ」だった。彼らは「総括」と称し、仲間にリンチを加えた上で屋外に放置するなどの方法で、計14人も惨殺していたのである。

民主党議員は、菅首相や仙谷由人代表代行ら、現執行部の容赦ない「粛清」に対し、たとえ中間派の議員であっても、うすら寒い思いを抱いている。
「菅政権がやっていることは、まさに、かつての極左過激派集団の手法です」
そう語るのは、「あさま山荘事件」の際、警察の現場部隊を指揮した佐々淳行氏(初代内閣安全保障室長)である。
「私は警察庁時代、機動隊を指揮して、菅首相の母校・東京工業大学に出動したことが3回あります。菅さんは当時、東工大の闘争委員長でした。あの当時、菅さんはいつもデモ隊の4列目にいた。私たちは、暴れる学生を3列目まで取り押さえましたが、4列目の菅さんは、いつもうまく逃げていた。私はその光景をよく覚えています」

〝逃げ菅〟、〝ズル菅〟と、総理就任後の半年間ですっかりその保身家ぶりが定着した菅首相だが、「仲間を切り捨て、自分だけは助かる」という行動原理は、40年以上も前から〝筋金入り〟だったということだ。
「仙谷氏にしても、'60年代に彼が属していた集団は、警察の監視対象にすらならない小さなものでしたが、彼は同志から『自分たちが捕まったら弁護してくれ』と言われ弁護士になった。その同志たちは実際に警察に逮捕され、その後の人生が完全に狂ってしまった。取り締まった側の警察官も、重傷を負っていまだ後遺症に苦しんでいる人たちがいる。でも仙谷氏は、そんな彼らに対し、まるで無関心のようです」(同)
岡田がここで寝返った
身内がいくら出血しようとお構いなし、ここ数ヵ月、ひたすら「小沢殺し」に邁進してきた菅首相と仙谷氏。ターゲットの小沢氏は強制起訴されることで、離党勧告、あるいは議員辞職勧告を突きつけられる可能性もあり、いまや生き埋めに等しい状態に見える。
ところが、首相らがせっせと小沢氏に被(かぶ)せていた土を、「やり過ぎではないか」と払いのける人物がいる。岡田克也幹事長だ。小沢亡き後の新生民主党を牛耳る「新4人組」と持て囃(はや)されてはいたが、岡田氏はその中で疎まれ、浮いた存在だ。

「次に埋められるのは自分だ」。あまりに極端な〝総括〟ぶりに、岡田氏は〝菅・仙谷ベース〟を抜け出し、山を降りることに決めた。
後に詳しく触れるが、そんな岡田氏の「寝返り」に、菅首相は、まったく気付いていない。1月21日、首相官邸で、菅首相と大手マスコミの論説委員や解説委員らとの懇談会が行われた。
だがそこに出席した人々は、首相の不可解な言動に唖然としたという。
「小沢氏の政倫審出席もままならず、菅首相はいまだ、何一つ指導力を発揮していません。にもかかわらず、『小沢問題は決着がついた』と言い放ち、成立が危ぶまれている予算案についても、『荷崩れ(審議が進まず身動きが取れない状態)は気にしない。(成立の)自信はある』と、根拠もなく断言する。菅首相は、『自分は世論に支持されている。間違いない』と、信じきっているようでした。仮想空間(バーチャル)に生きる総理―そんな言葉が胸をよぎりました」(懇談出席者の一人)
一部には精神状態を危ぶむ声が上がるほど、闇雲に元気な菅首相。これは、冒頭で佐々氏が指摘したエピソードが示す通り、「なんでも他人に押し付けて逃げる性格」だからである。

1月24日から開幕した通常国会は、のっけから大荒れの気配が漂った。たちあがれ日本を離脱し、経済財政相として入閣した与謝野馨氏が登壇すると、野党のみならず与党からも、「変節漢!」「議員を辞めろ!」などとヤジが飛び、不穏な空気が議場に充満した。
与謝野氏を一本釣りしたのは、「三顧の礼で迎えた」とまで言い切った首相自身だ。ところが、党の内外から非難の声が上がっていると聞いた首相は、「だって、オレが決めたんじゃないんだけどな」と、耳を疑う愚痴をこぼしたという。

与謝野氏の入閣には、財政再建論者の大手マスコミ幹部ら、複数の人間の推薦があったと言われる。つまり首相にしてみれば、「やれって言われたからやったのに」という、驚くべきことに被害者の気分なのだ。
しかし、組閣まで「オレのせいじゃない」と言い訳する総理など、見たことも聞いたこともない。菅首相の〝保身術〟は、もはや常軌を逸している。
「仙谷様」の原稿を棒読み
トップがこれでは、当然ながら政権内のモラルは崩壊することになる。箱の中のいちばん大きなみかんが腐っていたら、そのアオカビはあっという間に箱の中に蔓延し、最終的にすべてのみかんが腐り果てる。「腐ったみかんの方程式」だ。

1月24日、菅首相は、任期途中にもかかわらず、経済産業省出身の新原浩朗秘書官を、同じ経産省出身の貞森恵祐氏と交代させた。
任期中の秘書官交代は極めて異例。福山哲郎官房副長官は、「TPP(環太平洋経済連携協定)に取り組むため」などと説明したが、実はその真相は「官邸内の内ゲバ」だという。

「新原氏は官邸内で、菅首相ベッタリの側近として有名でした。それが、同じ側近の福山氏や、寺田学首相補佐官らからすると、目障りだった。そのため、福山氏らによって新原氏が官邸から追い出されたのが真相と言われています」(全国紙政治部官邸詰記者)
右を見ても左を見ても、保身と足の引っ張りあい。民主党の「黄門様」こと渡部恒三・元衆院副議長も、政権の現状を評してこうこぼしている。

「日本一の悪人(小沢氏)、日本一のバカ(鳩山由紀夫前首相)、日本一のズルい奴(菅首相)……」
そんな中、自滅への道をひた走る菅首相を横目に、せっせと足元を固めているのは、仙谷代表代行だ。
24日の施政方針演説で、首相は約1万字の原稿を棒読みした。施政方針演説は、通常、官房副長官や内閣官房参事官ら官邸のスタッフが、首相の意を受けて作る。だが、今回の原稿は、実は〝仙谷原稿〟だったという。
「事前に、党から官邸に対して『(施政方針演説の)原案をチェックしたいので、持ってきてくれ』と要請がありました。スタッフの一人は、『これじゃ鳩山前首相の時と同じだ』と、ぶつぶつ文句を言っていましたよ」(官邸関係者)

鳩山前首相の原稿は、当時の小沢幹事長がチェックしていた。官邸スタッフにしてみれば、「また今年も」とうんざりしたわけだ。
「それで、戻ってきた原稿を見ると、仙谷さんの修正が入っていました。菅さんは原稿をただ読んだだけなので、仙谷さんの意向が反映された訂正原稿を読まされたことにも、気付いていないでしょうね」(同)
絵に描いたような「裸の王様」である。それなのに菅首相は、煙たい存在だった仙谷氏を官邸から追い払ったと思い込み、「オレは仙谷がいなくてもやっていけるんだ!」と、根拠のない自信をますます深めているというから、こうなると笑い話にもならない。

仙谷氏は党の代表代行に就任した後、党本部の幹事長室を占拠して、岡田氏を追い出してしまった。そして、国会の院内には、国会対策委員長室のすぐ近くに、代表代行室を設置。官邸では、枝野幸男官房長官から、「いつでも長官室においでを」と、〝自由行動〟のお墨付きを得ているという。
「国対委員長の安住淳氏は、代表代行室にしょっちゅう出入りして、なんでも仙谷氏にお伺いを立てている。予算委員会をクビにされそうになった小沢派議員が怒鳴り込んで来た際、安住氏は最初『オレに任せとけ。悪いようにはしない』と安請け合いしたくせに、仙谷氏に相談したら一喝され、結局、連判状に署名した小沢派議員はほぼ全員クビになってしまった。〝仙谷支配〟ここに極まれり、です」(小沢派中堅代議士)
策士・仙谷氏の凄まじいところは、怒鳴りこんで来た小沢派の中心人物・川内博史代議士を、予算委員会をクビにする代わりに、幹部議員の特権である専用車がつく科学技術特別委員長にしたこと。いわゆる「位打ち」である。

しかも、シンパが一掃され、政治とカネの問題で国会に証人喚問される可能性が出てきた小沢氏や、その同調者である鳩山氏、羽田孜元首相らは、まとめて「懲罰委員会」に配置された。皮肉の利かせ方も、もはや尋常のレベルではない。
菅首相はもうすぐ自滅する。その場合、首相は破れかぶれ解散を打とうとするかもしれないが、政府も官邸も党も掌握した仙谷氏が、そんなマネは許さない。用済みの菅首相を引きずり降ろし、子飼いの前原誠司外相を総理に立てる……。
仙谷シナリオは、鉄壁のようにも思える。最大の政敵・小沢氏が、いまや青息吐息である以上、もう誰も、止めることはできない。

岡田「小沢は無罪になる」

だが―。政界の一寸先は闇、という。永田町における権力とは、振り子のようなものだ。ある方向に大きく振れれば、同じ力と勢いで、やがては逆の方向に揺り戻しがやってくる。
実は、「小沢殺し」という点では一致している菅首相と仙谷氏のシナリオに、微妙な〝誤差〟が生じ始めているのだ。
「小沢氏の強制起訴は、本来、1月中旬にも行われると言われていた。ところが、それが延びに延びた。理由は、起訴状の作成が著しく遅れたためです。検察審査会が、東京地検が詰め切れなかった『陸山会』(小沢氏の政治資金管理団体)の土地購入原資の問題まで起訴議決してしまったので、公判に堪えうる資料がほとんどない。最終的に小沢氏が無罪になる、という見方が根強いのはそういう事情です」(民主党幹部)
もっとも、菅首相や仙谷氏らは、公判の行方がどうであろうと、強制起訴された後、小沢氏に対し離党、さらには議員辞職を求める構えでいる。

ところがここで、小沢氏にとっては意外な〝援軍〟が現れた。それは先に記した通り、仙谷氏によって冷や飯を食わされている岡田幹事長である。
1月21日、小沢氏とそのシンパの処遇を巡り、一部の議員らが岡田氏に直談判した際、岡田氏は、
「(小沢氏に対し)離党勧告するとか、除名するとか、そんなことは一言も言っていない。安心しろ」
「自分も、(小沢氏の起訴案件の)何が問題なのかよくわからない」と言い含めたという。

その前日にも、岡田氏は周辺に対して、こうホンネを漏らしている。
「個人的な意見だが、小沢さんを議員辞職させるというのは、行き過ぎだと思う。無罪になる可能性が高いわけだし、そうなったら、誰が責任を取るのか。推定無罪なんだから」
「(小沢追放に躍起になる、菅・仙谷両氏ら)外野は気楽でいいよねえ。小沢さんは代表まで務めた人なんだから、議論は丁寧にしていかなきゃいけないよ」
以前、本誌は小沢氏が岡田氏のことを、「あいつはかわいそうだなあ。仙谷に騙されているんだ」と漏らしたことを紹介した。

岡田氏は原理主義者である。法に則って強制起訴が決まっている以上、小沢氏は排除されるべきだ―。菅首相と仙谷氏は、原理原則に弱い岡田氏に、小沢氏のクビに鈴をつける役目を押し付けた。
しかし、気がつけば自分は、党本部の部屋まで追い出され、やっているのはただの使い走り……。このままいけば、2月6日の愛知県知事選と名古屋市長選、4月の統一地方選の大敗の責任も、押し付けられる。
どんなに鈍い人間でも、ここまでくれば、さすがに気付く。「自分はただの捨て駒に過ぎない」と。
「黙っていれば、仙谷―前原―枝野の『凌雲会』ラインに民主党が牛耳られてしまうと焦りだしたのは、岡田氏だけではありません。『花斉会』を率いる野田佳彦財務相も、このままだと大臣を務めただけで〝一丁上がり〟になるのが確実で、側近から『いっそのこと、小沢氏と手を結んで仙谷一派に対抗したほうがいい』という声すら上がっています」(民主党中間派議員)

民主は解体・分裂の運命

小沢氏にとってさらに都合がいいのは、すっかり「菅嫌い」になった鳩山前首相の存在だ。
「自分にとっては、庇(ひさし)を貸して母屋(民主党)を乗っ取られたような心境だ。菅や仙谷は、自分と小沢を潰したいだけなんだ。そうはさせないよ」
鳩山氏は周囲にそう話し、小沢氏と同盟を結ぶことで、政治的な主導権を取り戻すことにご執心だという。
政治評論家の浅川博忠氏もこう語る。
「強制起訴後、小沢氏は単独離党を余儀なくされるかもしれませんが、党に残る小沢チルドレンを、資金豊富な鳩山氏が引き受けて『鳩山新党』を立ち上げる。その際には弟の邦夫氏や、新党改革の舛添要一氏も合流する可能性がある。そしてその背後には、無所属となった小沢氏がいる。こういう形は十分に考えられると思います」

菅首相が「小沢問題はカタがついた」と豪語しているのに、形勢は〝死んだ〟はずの小沢氏のほうに、再び傾きつつある。菅政権の連立パートナーである国民新党の亀井静香元金融担当大臣も、こう漏らしている。
「菅には、小沢をあんまり追い詰めず『いい子、いい子』ってやればいいんだ、と言ったのに。『わかった』って言うクセに、言ってることとやってることが逆なんだよ。与謝野を入れて社民党も怒らせるし。5人が腹痛でも起こせば、衆院の3分の2(を使った採決)もできず、予算が通らなくなるのになあ」
こうした情勢を見て、小沢氏は、ほくそ笑んでいる。小沢氏は1月22日に地元・岩手県の盛岡市に入り、統一地方選候補の応援とハッパかけを行うなど、強制起訴などお構いなしに、政治活動に没頭中だ。
「最近は酒もほどほどにしているし、夜は早く寝るから体調がいい。だから今年は風邪もひかないよ」と周囲には語り、同時に、
「与謝野を一本釣りして入閣させたのは、菅の失敗だ。(予算案審議のリミットに近い)2月いっぱいまで待てば、『たちあがれ日本』そのものが、連立の大義名分を考える時間を作れたのにな」
と、首相の政局勘の悪さを指摘してみせた。
「与謝野氏には、まもなく野党から問責決議案が出され、2月下旬には、仙谷氏や馬淵澄夫前国交相と同様、参院で可決される。その時、菅降ろしの攻勢に出る。両院議員総会を開いて『菅代表解任決議案』を成立させ、両院の議員だけでの代表選を行う。いま、小沢グループと鳩山グループで約180名だ。これをどこまで増やせるかが勝負になる」(小沢グループ幹部)
季節が冬から春へと移り変わる境目には、邪気が生じる。その邪気=悪霊を祓(はら)うため、日本人はこう言って豆を投げつける。

「鬼は外」

菅首相や仙谷氏にとっての鬼は、いうまでもなく小沢氏だ。そして小沢一派や鳩山グループからすれば、首相らこそ、民主党に取り憑いた邪気となる。互いに穢(けが)れを祓うのだと、彼らは必死に、相手に向かって豆を投げ続ける。
国民から見れば、こうして延々と内ゲバを続ける民主党政権はもはや無用の長物。そんなにお互いが嫌いなら、解体・分裂してもらった方がさっぱりする。