いつの間にか消えた民主党の07年「年金改革案」 [慶大教授 金子勝の天下の逆襲]

(日刊ゲンダイ2011/2/8)

菅首相は「税と社会保障の一体改革」を政権の最重要課題に掲げた。しかし、説明を聞いていると、民主党がマニフェストで何を主張していたかさえ忘れてしまったようだ。問題は二重三重にねじれている。

そもそも07年マニフェストにおける民主党の年金改革案は、「所得比例の保険料による年金制度の一元化」と、さらに最低水準に足りない人に対する「消費税によるミニマム年金の保障」という2つの柱からできていた。
これは「保険料方式」とも「税方式」ともいえないものだ。この制度の利点は、基礎年金を全額消費税で負担する案に比べ、基礎年金に関する企業拠出負担分が残るので、消費税負担が小さくて済むことだ。

ところが、当時、自民党の河野太郎らが中心となった「年金制度を抜本的に考える会」が、小沢民主党の07年マニフェストを批判する形で、「7万円基礎年金・全額消費税方式」+「2階建て部分は積み立て方式」という提案をした。
この河野太郎らの提案に、岡田克也、仙谷由人、枝野幸男らが食いつき賛意を表明した。おかげで09年マニフェストにも「7万円基礎年金」という言葉が忍び込んだが、それが07年マニフェストとどういう関係にあるかは、曖昧にされてしまった。

さらに民主党の年金改革案を分かりづらいものにしたのは、菅首相が与謝野馨を入閣させたことだ。
福田政権当時にできた「社会保障国民会議」は、民主党の07年マニフェスト案を意図的に除外し、「基礎年金・全額消費税方式」と「現行保険方式の基礎年金部分の税負担を3分の1から2分の1に引き上げる」という2案を中心的に取り上げ、財源負担をシミュレーションした。

その中で、与謝野馨は「現行の保険方式」を支持してきた。つまり与謝野は、年金改革案としてはよく出来ていた07年のマニフェストから一番、遠い人物なのである。たしかに政治は妥協が必要だろう。だが、菅政権は「税と社会保障の一体改革」でも原理原則を完全に忘れたかのように見える。

もし自公政権と同じことをするのだったら、そもそも政権交代など必要なかったではないか。これでは政党政治を壊すばかりだろう。(隔週火曜掲載)



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