大増税が実現の悪夢のシナリオ (日刊ゲンダイ2011/2/9)

なぜか消えた3月改変

「どうせ、あと2カ月もすれば終わりでしょ」

そんなふうに甘く考えている国民は多いのではないか。「菅政権は3月危機でニッチもサッチもいかなくなる」という大マスコミの論調に乗せられているのだ。

確かに、菅首相は追い込まれているように見える。野党を取り込めなければ、衆院の優越が及ばない予算関連法案は一本も通らない。政権は悶絶して倒れることになる。多くの国民が、「疫病神みたいなシケたツラを見るのも、もうしばらくの辛抱だ」と受け止めるのも無理はない。

実際、政権運営はドタバタ続きである。菅は、衆院で再可決できる「3分の2」か参院の「過半数」を確保しようと右往左往し、醜態をさらしている。参院で19議席の公明党に狙いを定めてきたが、「関連法案は賛成しないのが筋」(山口代表)と冷たくされると、再び、「社民党、国民新党とともに政策を実現したい」と言い出した。きのう(8日)は、岡田と重野の両党幹事長も会談している。

衆院で社民党の6議席を足せば、与党はギリギリで3分の2を超える。だが、社民党は法人税減税や米軍普天間基地移設費に反対だ。財界と米国に歯向かえない菅にとって、そこは譲歩できないところである。その結果、関連法案成立は暗礁に乗り上げてしまう。だから、「自らのクビと引き換えに、菅は、法案を成立させるのではないか」と囁かれているのだ。

◆見せかけだけの無気力八百長政局

残念ながら、このシナリオは楽観的である。菅は、そんなタマじゃないし、野党も本気で倒閣に動いているわけではない。政治評論家の有馬晴海氏が言う。
「公明党が政権批判を強めているのは、自分たちを高く売るためのパフォーマンスでしょう。統一地方選を控えている段階で、不人気の菅政権と手を組むのは得策ではないとの考えもある。しかし、公明党の支持者も、1万3000円の子ども手当から5000円の児童手当への逆戻りを望んでいるわけではない。党としても、ずっと野党にいる覚悟はありません。“福祉の党”の大義名分が立ちさえすれば、関連法案は賛成に回ると思います」
信じられないことだが、なにしろ菅首相には味方が多い。大新聞はあからさまに菅の大増税を援護射撃だ。例えば読売新聞は、6日付の社説で〈社会保障政策は、国の根幹に関わる重要な政策だ。与野党が対立する問題ではない〉〈感情的対立で社会保障改革の議論を遅らせたり、ゆがめたりしてはならない〉と主張した。
倒閣に動く野党をいさめるのだ。
財務省も悲願の消費税増税に向かっているのだから文句はない。財界だって、法人税減税に加えて、TPP参加に前向きな菅を歓迎している。国民にはてんで人気がなくても、周囲の応援団は強力だ。節操なく何でものみ込んでくれるのだから、これほど都合がいい政権はないだろう。
こうなると、野党もおいそれとは動けない。
「自民党からすれば、菅政権が消費税増税に取り組むのは、悪い話ではありません。政権担当能力を示すために税率アップを訴えていますが、当事者としては関わりたくないでしょう。大増税をやれば国民の猛反発が避けられない。選挙で負けるのです。どうせなら、菅政権のうちに終わらせてもらいたいというのが本音でしょう」(有馬晴海氏=前出)
恥も外聞もない菅一派の自公抱きつき作戦が当たった格好である。党利党略、私利私欲が蠢(うごめ)く永田町は、見せかけで戦っている無気力の八百長政局に成り下がっているのだ。

大増税が実現の悪夢のシナリオ

◆自民党の法案をタテにマニフェストを潰す異常

本来なら、大惨敗が確実な4月の統一地方選もヤマ場だ。菅政権は絶体絶命のピンチを迎える。即退陣でもおかしくないが、菅執行部には選挙の敗北で責任を取るという“文化”がない。
こうなると菅政権はのうのうと延命し、大増税という悪夢のシナリオが現実になってしまう。国民は、「4年間は消費税の議論もしない」という鳩山前首相を信頼し、民主党に政権を託した。ところが菅は、現職の野田財務相と与謝野経財相、藤井官房副長官という4人の財務大臣経験者で“大増税カルテット”を組み、素知らぬ顔で税率アップに突き進んでいる。とんでもない裏切りだが、本人はマスコミや財界におだてられ、すっかりその気になっているのだから、正気の沙汰と思えない。いったい、民意を何だと思っているのか。

経済ジャーナリストの荻原博子氏が言う。
「菅政権は、4月に社会保障改革の基本方針を示し、6月に税制を含む一体改革案と工程表を取りまとめるとしています。しかし、現段階では素案すらありません。国会でも、質問に立った公明党の坂口元労働大臣に、
“公明党の案はいいですねえ”とおべんちゃらを言ってお茶を濁していた。本気で取り組む気構えが感じられないのです。一体改革だ何だと言っても、しょせん消費税増税のための仕掛けに過ぎないのでしょう。野田財務大臣が『消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、11年度までに必要な法制上の措置を講じる』とした所得税法の付則104条を持ち出し、増税を正当化しているのもおかしい。民主党は麻生政権のときに、この付則を含む所得税法改正案に猛反対したのです。菅政権は自民党がゴリ押しした法案を尊重し、民主党のマニフェストをないがしろにしているわけです。これでは何を信じていいのか分かりません。政権交代を支持した国民をバカにしていますよ」

やはり、民主党に政権交代の夢を託したのが大間違いだったのだ。

◆菅の裏切りに国民は悶絶させられる

野党時代に自民党との大連立を模索した小沢元代表は「民主党は政権担当能力がないとみられている」と指摘した。この見立ては当たりだった。能力も経験も資格もない連中に権力を与えるとロクなことがない。まるでハナをかんだティッシュのように国民との約束をゴミ箱に捨て、マスコミや財務省、財界とガッチリ握手したりするのだ。どんな手を使ってでも延命することしかアタマにない男が、何の弾みか首相になったりするのだ。その結果、この国と国民は奈落の底に突き落とされる。
「菅首相は国民との約束を何ひとつ果たしていません。子ども手当は風前のともしびだし、高速道路の無料化も遅々として進まない。ムダの削減はサッパリで、公務員の削減となると手すらつけていない。ちゃんとやりましたという実績はゼロです。それなのに増税で庶民イジメだけはしっかりやろうとしている」(荻原博子氏=前出)

だからといって、いまさら旧体制でガチガチの自民党に任せられるわけじゃない。こうなると、悶絶するのは菅じゃなく国民だ。こんなバカな話があるのか。

歳費だけでは飽きたらず、政党助成金まで血税から吸い上げながら、国民のために働かない税金ドロボーに用はない。八百長政治は絶対に潰さなければダメだ。



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