解散も総辞職もなし 泥沼政局 (日刊ゲンダイ2011/2/10)

一体誰のため何のための首相なのか

近年まれに見るヒドさだった。きのう(9日)の党首討論のことだ。

税と社会保障の一体改革に入れ揚げる菅首相は、この日も「4月に社会保障、6月に一体改革案の提示」を約束。谷垣自民党総裁に与野党協議のテーブルに着くよう求めたのだが、その谷垣から「マニフェスト違反を一緒に協議して片棒を担げという八百長相撲みたいな話には乗れません!」と、思いっきりヒジ鉄を食らわされたのだ。

これにイラ立ちを見せた菅は、民主党マニフェストの冊子を掲げて、口角泡を飛ばし、こう言った。
「参院選の私のマニフェストで“協議しよう”と申し上げている! 国民に対するゴマカシには、あたらない!」
抱きついた女に拒絶され、逆ギレしたダメ男みたいだ。しかも、菅がエラソーに持ち出してきた昨年の参院選マニフェストは、選挙ではっきりと国民がノーを突きつけたものである。言っていることまで見当違いだから、余計にブザマだった。

それにしても、菅という男は一体、誰のため何のための首相なのか。衆院選マニフェストにない政策にシャカリキになって、旧自公政権の一体改革案を軸にすると言い出したり、与謝野馨のような旧政権の亡霊を入閣させたり。
国民はそもそも、腐り切った自公政権に愛想を尽かし、09年の衆院選で民主党に政権を託したのだ。普通なら、自公政権を倒そうと投票してくれた人が望む「国民生活が第一」の政治をやるのが当たり前だろう。それなのに、首相になるや、最初から自民党に媚(こび)を売り、その支持勢力のための政治をし、自民党化へまっしぐらなのだ。だから、「誰のため何のための首相か」なのである。

◆弱肉強食の大競争社会で日本は壊れる

筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)が言う。
「しかも、ただの自民党化ではありません。小泉政権時代の新自由主義に回帰しているから最悪なのです。有権者の望んでいない消費税増税に前のめりになり、企業減税、TPPへの参加など、財界やアメリカにまで抱きついている。とくにTPPは危険で、アメリカに対して経済的な武装解除をし、国境を取っ払うに等しい。モノだけでなく金融や労働市場も自由化され、海外勢も交えた大競争社会が到来します。雇用は激減、賃金は急落し、格差社会や米国の属国化はますます進んでいく。日本はメチャクチャに破壊されてしまうでしょう。菅政権は小泉政権でも尻込みした暴挙をやろうとしているのです。有権者はこんな政権に一票を投じたわけではありません。菅政権は国民に信を問い直すべきです」

社民党の福島党首も「小泉構造改革的なものが出てきた」と菅政権のテイタラクに呆れていた。ここまで裏切りを重ねても、権力欲むき出しの菅は「今は解散するつもりはない」の一点張りだからフザケている。きのうの党首討論では、「まず解散だというのは国民の利益よりも党の利益を優先させた提案だ」なんて谷垣に説教していた。保身延命という自分の利益だけを最優先させている男が、どの口で言っているのか。このまま解散も総辞職もなければ、政局はニッチもサッチもいかず完全に泥沼だ。

◆官僚の口車に乗って増税に突っ走る民主党は自民党の思うツボ

それにしても、これほどデタラメな政権がかつてあったか。この10年、小泉内閣から麻生内閣に至るまで旧自民党政権はロクなものではなかったが、菅政権は輪をかけてひどい。
少なくとも自民党政権は安易に野党にスリ寄ったり、抱きつこうとはしなかった。政策も簡単には変えなかったし、ねじれ国会の中でも、なんとか予算を上げようと、のたうち回ったものだ。

ところが、理念もへったくれもない菅は、何もやろうとしない。頭にあるのは首相の椅子にしがみつくことだけ。国会を乗り切れればそれでいいから、恥もプライドもなく自民党に抱きつき、公明党や社民党の顔色をうかがって、右(う)顧(こ)左(さ)眄(べん)しているだけなのだ。こんな政権は前代未聞じゃないか。

政治評論家の本澤二郎氏が言う。
「自民党時代の政官癒着の腐敗構造もひどかったが、財務官僚にまんまと利用されている菅政権を見ていると、官僚を利用していた自民党の方がマシに見えてくるから末期的です。何より、この展開にニンマリしているのは自民党でしょう。自民党は消費税増税の必要性を言いながら、世論の反発が分かっているから この国の多くの有権者は新聞TVの論調に引きずられて、「増税やむなし」と最初からあきらめているが、これほどの無気力では菅にナメられても仕方がないのだ。
「大マスコミの論調をうのみにしてはいけません。デフレ不況で生活苦にあえいでいるのに、さらに消費税を上げられていいのか。自分の生活を考え、おかしいと思ったら声を上げるべきです」(小林弥六氏=前出)

国民一人一人が菅に引導を渡さなければ、国民生活まで泥沼に引きずり込まれるだけだ。



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