死に体にしがみつかれては国民が迷惑 やぶれかぶれ解散もできない

(日刊ゲンダイ2011/2/14)

あと2カ月の余命しかない菅首相の不景気顔は、もうこれ以上見たくないと庶民の声

─強気を装い作り笑いをするが目は虚ろ顔には生気がなく公明社民にも袖にされ予算関連法案は否決、地方選前に引きずり降ろされるだろう

いまさら驚きもしないが、菅内閣の支持率がまた落ちた。共同通信の最新世論調査で19・9%となり、ついに2割を切ったのだ。前回調査から12・3ポイントの急落で、逆に不支持は63・4%と10ポイント近く上昇している。

調査が実施されたのは、菅首相になって初めての党首討論が行われた直後の11日と12日。自民党の谷垣総裁と公明党の山口代表に責め立てられ、オドオドした姿をさらしたのがモロに響いた格好だ。菅政権に騙されながらも、「せっかく政権交代したのだから」と一縷(いちる)の望みを託していた人たちも、ついに見限ったのだろう。これまで菅は小沢元代表を叩くことで支持率を上げてきたが、そんなマヤカシも通用しなくなっている。

同志社大教授の浜矩子氏(国際経済学)が言う。
「市民派の菅首相には期待していました。アタマを叩けば市民、市民と音がするぐらい確たる理念をお持ちだろう、と思っていました。でも、まったくの勘違いでしたね。菅首相は、隣で足を踏んづけられて悲鳴を上げている人がいても、まったく気づかずに足を踏み続けるような鈍感な人。『日本のギリシャ化が心配だ』と言っていながら、格下げについて聞かれると『そういうことに疎いので』と平気で言う。無自覚な論理矛盾には、目を覆うしかありません。表情もうつろで生気も感じられない。一点を見据えなければならないときにキョロキョロし、顔を上げるべきときに下を向き、柔和な表情を求められているときに顔がこわばる。政策もパフォーマンスも勘が悪い。感受性が発達していないとしか思えません」

最近は、声を荒らげて強気を装ったりしているが、根は小心者のようで、大事なときに自信なさそうな不景気面をさらすのだ。
党首討論でも目をしばしばさせ、落ち着きがなかった。同僚の女性議員から「元気に見えるように」とプレゼントされたピンクのネクタイを締めて臨んだが、周囲の心配は的中した。
これでは支持率が急落するのも当然である。

◆公明、社民は抱き合い心中を恐れてツボ

国民に見放された「死に体政権」には、野党もソッポを向く。暖かい季節ならいざ知らず、真冬の川に飛び込んで溺れる犬を助けようとすれば、自らの命が危ない。

菅のバックには、消費税増税が悲願の財務省や官僚にベッタリの大新聞がいる。米国も、TPPや普天間の問題で言いなりの菅を潰す気はない。「それでも、菅民主党に協力すれば、抱き合い心中で一巻の終わりになりかねません。参院で過半数か、衆院で3分の2か。民主党が予算関連法案を成立させるには、どちらかをクリアしなければダメで、参院なら公明党、衆院なら社民党を引き込む必要がある。しかし、これほど不人気の政権に加担すれば、自分たちの立場も危うくなる。絶対に乗れないでしょう」(政治評論家・山口朝雄氏)

実際、「公明党は子ども手当に反対する方針を固めた」(政界事情通)という。
「菅の周辺は、最後の最後は公明党が賛成すると読んでいました。党首討論の前に、岡田幹事長が山口代表に『頑張ってください』と声をかけるなど、あけすけなおべんちゃらで接近してきた。公明党を引き込むのは難しくない。支持母体の創価学会は低所得者が多いといわれている。そこに向けたバラマキをやれば、乗ってくるのです。基本的な交渉もできない菅執行部は本当に幼稚です」(政界関係者)

◆政府は野党のご用聞きではない

社民党との共闘はさらに困難だ。政権協力の前提となる法人税減税の撤回や普天間基地の移設関連経費削除は、民主党がのめる条件ではない。普天間経費は「凍結」の付帯決議をつけて成立させるとの奇策もささやかれたが、社民党が応じる気配はゼロ。「チンすればすぐ解凍できる」との声も聞かれる。てんで信頼されていないのだ。

公明、社民に見捨てられた菅政権は、雪隠詰めで投了するしかない。予算関連法案の年度内成立は絶望的。
しかも、政策度外視で野党に秋波を送る姿勢に、国民はさらにウンザリしている。
「まるで、野党の意見を聞くから予算を評価してくださいという態度ですが、政府は野党のご用聞きではないはずです。こんな与党は世界中を見渡しても存在しません。国民を無視して野党にモミ手では、政権交代を実現させた有権者に失礼だし、大いなる不義理。それに気が付かない神経には唖然呆然です」(浜矩子氏=前出)

打つ手はすべて裏目に出て、動けば動くほど人気を落とす悪循環。このままでは菅政権は3月末で終わりである。

◆負け犬の菅はロシア相手に遠吠えが関の山

余命2カ月を切り、アップアップの首相にも奥の手がある。衆院の解散だ。伝家の宝刀を抜くことは、そのポーズを示すだけでも効果がある。

4月の統一地方選に力を入れている公明党は、同日選で支持者が混乱するのは避けたい。社民党も、出番が少なく埋没したまま選挙となるのは最悪だ。党勢を挽回できず、存亡の危機を迎える恐れが濃厚である。
自民党だって選挙は避けたい。党首討論で谷垣は、「マニフェスト違反の片棒を担ぎ、八百長をやろうという話には乗れない。冗談じゃない」と菅に解散を要求した。しかし、「選挙となっても候補者がそろわないし、過半数を取れる見通しは立っていない」(関係者)と腰が引けている。

菅が「破れかぶれ解散」を持ち出せば、形勢逆転もあり得るし、妥協点が見いだせるかもしれない。
しかし、今の菅には、そんな力もない。せいぜいロシアのメドベージェフ大統領の北方領土訪問を「許し難い暴挙」と非難し、留飲を下げるのが関の山。怒られても大して困らない相手を選んで吠えるだけである。

政治評論家の有馬晴海氏が言う。
「負けると分かっているのに解散する政治家はいません。とりわけ菅首相は、一日も長く総理をやりたいという人。選挙で負ければ政権を手放すことになるのです。麻生元首相だって、延命を考えて選挙ができなかった。やけくそ解散の可能性は低い」

そもそもこれほど人気がなければ、自分も危ない。落選の恐れもあるから、じり貧だ。予算は通らず解散もやらずでは、政権は存在しないも同然。さすがに党内からも菅降ろしの声が上がるだろう。統一地方選の前に引きずり降ろされる公算は大だ。

菅の分析によると、歴代の総理は、「これだけ頑張っているのになぜ分かってくれないのか、と気持ちが萎えて辞める」のだそうだ。もう十分だ。これまでの総理と同じように、萎えてもらって結構。一日も早く退陣してもらいたい。



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