なぜ私は世間から嫌われ、孫正義は好かれるのか

ライブドア元代表取締役社長 堀江貴文
(プレジデント 2011年3.7号) http://p.tl/3xm5

<最新3/7号からチョイ読み>「孫さんは立派なことしか言わないし、苦労話もいっぱいする。苦労しているおっちゃんはあまり嫌われないよね」

孫正義氏は、今年1月の弊誌調査「好きな経営者ランキング」でトップに選ばれたが、反対に「嫌いな経営者」トップに選ばれたのは、元ライブドアの堀江貴文氏であった。すっかりイメージを落としてしまった堀江氏だが、過去には孫氏、楽天の三木谷浩史氏と比較され、経営者ランキングで揃って上位に選ばれた時代もあった。そんな堀江氏から見ると、孫正義氏と、そのビジネスはどのように見えるのだろうか。

―事業家としての孫さんをどのように評価されていますか。

堀江 いわゆる「ハイローラー」ですよね。精一杯レバレッジをかけて勝っていく感じ。入札では常に最高額を提示するタイプで、お金のパワーをよく知っていますよ。「欲しい」と思ったら、どんなことをしてでも買う、みたいな感じ。

ちなみに僕は逆のタイプ。欲しくても割安でなければ絶対に買いません。

―過去、テレビ局の買収劇で、孫さんはテレビ朝日株を取得したものの、「相手がその気じゃないのに株主になっても無理」とすぐ撤退しましたが、堀江さんはフジテレビに440億円もの第三者割当増資まで呑ませました。こういった判断の違いはどこから生じたのでしょうか。

堀江 孫さんの判断については、正直わかりません。僕については、買ったほうがいいと思ったから買ったまでです。

―相手が嫌がっても買う価値があると。

堀江 そもそも「嫌がる」って意味がわかんないですよね。上場会社で株主がいて、公共性の高い企業が嫌がるって何言ってんの、みたいな。嫌がる女性を無理にねじ伏せて、とかじゃないでしょう。

テレビ局は、電波という公共財産を特別に割り当てていただいて事業を営んでいるわけじゃないですか。なのに好きとか嫌だとかいった感情論で物事を進めようとする人がいるから困るんですよ。

―ただ、そうした反発が堀江さんに対するバッシングや後の逮捕につながった面もあると思いますが。

堀江 逆恨みされたようなことも伝え聞きますが、僕には理解できないし、そうあるべきではないとも思っています。でも実際、そこそこ成功した人が「こいつは嫌い」といった理由だけでいろいろなことを決めたりしている。そういう人は公の精神が欠けていると思いますが。

もちろん、当時の孫さんの判断は、結果論としてはよかったんじゃないですか。


―プロ野球球団の買収では最初にライブドアが手を挙げたものの果たせず、後発の孫さんがホークスを買収しました。孫さんがプロ野球に参入できて、堀江さんができなかったのはなぜでしょう。

堀江 一つは資金力。あとは、僕と違って孫さんは嫌われないんじゃないでしょうか。おっちゃんだし。イケメンで髪フサフサの30歳だったら無理だったんじゃないかな、嫉妬されて。孫さんは立派なことしか言わないし、苦労話もいっぱいする。苦労しているおっちゃんはあまり嫌われないよね。世間からは「血のにじむような努力をしないとああいうふうにはなれないんだ……」とか思われて。

そういったところって、物事をスムーズに進めていくうえで結構大事だったりするみたいですね。でも、僕は自分の苦労話とかするのは嫌なんですけど。だって格好悪いじゃん。別に孫さんを批判しているわけではないですよ。彼はそういうことを自然にできる人だと思いますし、そのほうが得なんじゃないでしょうか。

ただ、僕にはそれができないんです。

あと、ある意味、孫さんの経営はすごくオーソドックスだと思う。孫さんがトップとしてITのことがわかっているだけで、ものすごいアドバンテージがあるわけですよ。同業の大企業経営者はわかっていない人が多いですから。

時期もよかった。孫さんが会社をつくったのは、僕の起業より15年くらい前ですね。世界的に見ればビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズも同じ世代。あの頃にITを始めた人たちは、そこそこの能力があれば大体うまくいっている。焦りすぎないで、オーバーバリューくらいの値段をかければどんな会社でも買える。

―「焦りすぎない」という意味は。

堀江 孫さんは、最大限のスピードでやっているのかもしれませんが、僕のスピード感からするとちょっと遅いと思う。だからこそ、世間的にはちょうどいいんでしょう。彼が考えていることもある意味、受け入れやすい。30年ビジョンを語ったり、創業した会社に一生を捧げるというような話は、普通のサラリーマンでも「立派だ」と共感しますよね。

僕はそういう意味では速すぎるから、ある程度ブレーキかけながらやらないと。30年かければそりゃできるでしょう。でも、僕は仕事以外にもやりたいことがあったし、寝食忘れて働くのには限界があるから、30代半ばくらいで一回終わらせたいと思って焦ってた。

―堀江さんと孫さんはどちらもIT業界で会社を急成長させ、社会に大きなインパクトを与えましたが、なぜか堀江さんにだけ悪役イメージがあるようです。

堀江 マスコミのプロパガンダと、それによる世間の思いこみでしょうか。あと、僕の言っていることがスピードが速すぎてわからないからじゃないですか。

例えば「テレビ局買収して何やるんですか?」と聞かれたから、「ライブドアってテレビ局に変えて、ライブドアドットコム、と番組に出すんですよ」と端的に答えると、もうほとんどの人が理解できない。要はテレビ局をNHKのような有料課金型に変えて強固な収益基盤をつくり、いいコンテンツをつくる体制を構築するのが本質なんだけど理解されない。

実際、今になってテレビ局の収益が悪化し始めてますよね。そこにきてやっと同じようなことを言う人が出てくる。

みんなが考えていないことをやらない限り、超過利潤は得られませんから、そんなに理解されるわけはないんですが。そういう意味では、孫さんはものすごく先進的なことはやっていないんです。

今、ソフトバンクの加入者数を牽引しているのはiPhoneですよね。アメリカでいい感じで普及したところで日本にポンと持ってきたけど、孫さんはiPhoneを生み出したわけじゃない。否定はしないけど、僕からするとつまらない。

―堀江さんはソニーを買収し、今で言うスマートフォン的なものをつくりたかった、と著書で書かれていますね。

堀江 だって、そのほうが面白いじゃん。僕は2004年頃、「常時接続でインターネットにつながった、携帯電話機よりも一回り大きいぐらいの端末が主流になる」と予言したけど、ソニーを買収するって話になった時点で、「とんでもない」ってみんなの思考が止まっちゃう。

でもね、僕は無理に人の考え方を変えたいと思わないほうなので、わかる奴だけ周りに集まればいいと思ってる。司法対策という意味で、事実無根の噂を流されたようなときは徹底的に説明するようになりましたが、「僕はこう思うけど、君はどう思ったっていいんだよ」という気持ちは変わらないです。

ずっと嫌われて上等という生き方をしてきましたが、「なんとなく格好いい」とかフワフワした好かれ方が気持ち悪いんです。本質がわかったうえで言ってくれるなら嬉しいんだけど。相手に要求するレベルの高さ、そこを僕は結局、妥協できないんでしょうね。



堀江貴文●1972年、福岡県生まれ。実業家・ライブドア元代表取締役CEO。2006年、証券取引法違反により東京地検に逮捕され、一審で懲役2年6月の実刑判決を受け(控訴は棄却)、現在上告中。最高裁判決を待つ。著書に、『拝金』『君がオヤジになる前に』『人生論』など。