菅民主党は独裁政権なのか (日刊ゲンダイ2011/2/16)

危険水域に来たこの国の民主主義

2000年の加藤の乱は、国民の支持を失った森政権の打倒を目指す倒閣運動だった。度重なる失言や暴言に加え、「サメの脳味噌」とヤユされる無能ぶり。森首相は有権者の信頼を失う材料に事欠かなかった。だが、国民の離反に危機感を覚えた加藤派の一部が決起したときでさえ、内閣支持率は15%前後である。ヒトケタに低迷していたわけではない。

菅内閣の支持率は、当時のレベルに急接近している。共同通信の最新調査では19・9%。しかも、支持している人の内訳を見ると、「ほかに適当な人がいない」という消極的な理由が半数近く(47・3%)に上る。本気で菅首相を支持する人は、オモテの数字の半分程度。10人に1人ぐらいしかいないのだ。
世論調査には選挙を上回る効力がないし、結果は“参考記録”に過ぎない。それでも、この水準は異常に低い。国民は、菅じゃダメだと思っている。首相にふさわしくないと確信しているのだ。普通なら政局になっておかしくない。菅降ろしの嵐が吹き荒れて当然の状況である。

ところが、本人もその取り巻きも危機感はゼロだ。絶望的な低支持率を前にしても、「衆院議員の任期はあと約2年半、首相の民主党代表としての任期は1年半以上ある」(枝野官房長官)と居直った。記者の質問に「コメントなし」を連発する“能なしスポークスマン”のくせに、ふてぶてしさは一人前だからイヤになる。

◆「支持率1%でも辞めない」が現実になる怖さ

菅は以前、「内閣支持率が1%になっても辞めない」とうそぶいていた。「あれは知人が言ったこと」とか何とかゴニョゴニョと言い訳していたが、あながち冗談ではなくなってきた。親戚一同の応援しかなくても辞めない。そんな雲行きである。

エジプトのムバラクや北朝鮮の金正日は、一族で富と権力を独占し、国民を食い物にしてきた。どれだけ国民が反発しても、腕力で押さえつけ、地位を守る。菅がやろうとしているのは、彼らと同じ。民意を無視した独裁である。政治評論家の本澤二郎氏が言う。
「歴代の政権は、善くも悪くも支持率に敏感でした。なぜ国民の気持ちが離れたのか、数字が悪くなれば原因を探ったし、必死で軌道修正を図ろうと考えた。
その結果、人気取りのパフォーマンスが横行することもありましたが、少なくとも国民の側に意識が向かっていたのです。菅内閣には、それがありません。国民が衆院選当時のマニフェストの実現を求めても、生活保護を申請する世帯が過去最高になっても、われ関せずを貫いている。最高政策責任者としての自覚がないのです。これでは支持率が下がるのも当然ですが、反省のそぶりもない。主権者である国民をバカにしています。政権批判に耳を貸さず、30年間権力を握り続けた独裁者のムバラクとそっくりです」
菅民主党の悪政は、見過ごせないレベルに達している。

◆子ども手当廃止なら月2万円の負担増

エジプトでは、権力の監視役であるはずのマスコミが、政権ベッタリの報道で独裁を許してきた。ムバラク政権倒壊を受けて、「史上初の民衆革命だ」とか何とか報じ始めているが、メディアも共犯だったのだ。
日本も同じである。国民との約束を無視する菅民主党と足並みをそろえ、「子ども手当を見直せ」「高速無料化は必要ない」と、むしろマニフェストに違反するようにけしかけている。だが、こんな大新聞のデタラメな論調に踊らされて、「子ども手当は必要ない」「野放図なバラマキだ」と思い込む必要はない。経済ジャーナリストの荻原博子氏が言う。
「子ども手当法案が成立せず、児童手当に戻るようなことになれば、子育て世帯の負担はズシリと増えます。
児童手当は1人5000円。一方の子ども手当は1万3000円です。子ども2人なら、月に1万6000円も違ってきます。その上、16歳未満の一般扶養控除などの廃止もあるから、年収400万円で子ども2人のサラリーマン世帯は月に2万円ぐらいの負担増になるのです。簡単にやめていい法案ではありません」
子ども手当を害悪と決めつけるメディアの罪は重いが、菅の仲間はほかにもいる。財界や官僚、富裕層もグルだ。

菅政権は国際競争力や経済成長を口実に、財界が求める法人税減税を決めた。その穴埋めに、財務省がやりたくてやりたくて仕方がなかった消費税増税をやるのだから、国民不在もいいところだが、法人税を下げたところで庶民への恩恵はない。

◆多数派の意見を無視する暴挙を許すな

浮いたカネが投資や雇用に回るというのなら、少しは景気も上向くというものだが、経営者の考えは違う。増えた利益は内部留保や株主への配当に回されるのだ。トクをするのは、自社株を持っている経営者や金持ち層だけ。国民の暮らしのことなど、これっぽっちも考えていない。

菅民主党は「国民の生活が第一」だった民主党と全然違うのだ。別物と思った方がいい。同志社大教授の浜矩子氏(国際経済学)が言う。
「多くの国民は、菅政権に歯がゆい思いをしています。自分たちの手で実現した歴史的な政権交代は大切にしたい。それだけに、政権交代の大義を踏みにじっている菅内閣に苛立ち、腹立たしさを感じています。ただ、菅政権の否定は政権交代の否定につながりかねないから悩ましい。国会よりも、われわれの内臓の方がねじれてしまいそうです」
日本は曲がりなりにも民主主義の国である。多数派の意見を尊重するのが民主主義だ。多くの支持が得られないのなら、速やかに退陣するか、信を問うのがルールである。一部の勢力が結託して統治するのは独裁にほかならない。

国民に支持されない政権が居座り続け、勝手気ままに振る舞う暴挙を許すようなら、日本の民主主義は終わりだ。