大マスコミに問う それでは「抑止力」は真実なのか!? (日刊ゲンダイ2011/2/17)

どんな言葉を使っても沖縄県民には方便

鳩山前首相の「方便だった」発言が、大変な騒ぎになっている。野党側は「参考人招致しろ」と息巻き、北沢防衛相も「衝撃だった」と突き放した。新聞テレビも「無責任極まる」と朝から晩まで叩きまくっている。しかし、この問題の本質は鳩山の“言葉の軽さ”ではないだろう。沖縄の海兵隊は本当に「抑止力」なのか。こちらの議論を置き去りにして、鳩山のある意味、“バカ正直”な発言を袋叩きにすることには違和感がある。

◆鳩山「方便」発言を一方的に叩く無意味

「方便」発言は「沖縄タイムス」や「琉球新報」など地元紙のインタビューで飛び出した。鳩山は普天間基地の県外移設を断念した経緯を振り返り、〈辺野古しか残らなくなった時に理屈付けしなければならず『抑止力』という言葉を使った。方便と言われれば方便だった〉と“白状”した。この記事が13日に掲載されるや、「集中砲火」の展開になった。

大マスコミは「改めて沖縄の不信感を煽った」みたいに叩いているが、そもそも、沖縄海兵隊の抑止力についてはさまざまな議論がある。これまでも疑問符が付けられてきたのだ。その検証もせずに、「抑止力」という言葉を錦の御旗にして、沖縄に一方的に負担を押し付けてきたのが歴代政府だ。こちらがコトの本質なのである。元外務省国際情報局長の孫崎享氏はこう言う。
「海兵隊は有事の際に真っ先に戦闘地域に派遣される急襲部隊です。沖縄に駐留しなければ抑止力が発揮できないということにはなりません」

◆「役人の抵抗」も基地問題暗礁の一因

有事になれば、海兵隊が日本を守ってくれるというのは誤解だ。中国や朝鮮半島有事の時、海兵隊の任務はまず、米国民の救出になる。もっと言うと、米国にとって、海兵隊がどこにいようが関係ない。鹿児島でも佐賀でもいいわけで、その意味で普天間移設問題は「抑止力」とは関係のない国内の政治問題だ。それを解決できないものだから、鳩山は「抑止力」という言葉を使って逃げた。大マスコミは「方便」発言を批判するが、それでは沖縄県民を納得させる「真実の言葉」があるのか。どんな理屈をコネたところで、沖縄にだけ基地が集中している理不尽を沖縄県民が納得する言葉はないはずで、何を言っても「方便」になる。だからこそ、いまだに沖縄県民は辺野古移設を承諾せず、基地問題は暗礁に乗り上げたままなのだ。

加えて、鳩山の発言には「方便」よりも重大な部分がある。鳩山はインタビューで〈防衛省も外務省も沖縄の米軍基地に対する存在の当然視があり、数十年の彼らの発想の中で、かなり凝り固まっている。動かそうとしたが、元に舞い戻ってしまう〉〈官邸に両省の幹部を呼んで、情報の機密性を大事にしようと言った翌日に、そのことが記事になった〉とコボした。
「この発言通りなら、役人が総理大臣の指示に対し、従わなかったことになる。総理よりも強い存在、米国を見ていたからでしょう。メディアは、方便発言ばかり報じていますが、抑止力と海兵隊の関係を改めて真剣に考えるような報道をするべきです」(孫崎享氏=前出)
いっそのこと、鳩山を国会に呼んで、この間の経緯を洗いざらいしゃべらせればいい。



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