「小泉改革」を煽った連中が今度は「TPP」を煽り立てる醜悪

[慶大教授 金子勝の天下の逆襲]

(日刊ゲンダイ2011/2/22)
「小泉改革」を煽(あお)った連中が、再び「TPP」を煽り立てている。
こう言うと失礼だが、またぞろゾンビたちが再登場しているのだ。

彼らいわく、グローバルルールに従わないと日本企業は競争力を持てない、タイムリミットが迫っている、TPPのルール作りに参加しないと日本は後れをとってしまう、TPPを邪魔しているのは抵抗勢力の農業利害で、TPPに参加すれば工業製品の輸出が拡大する……。
こうした主張に聞き覚えはないだろうか? 10年前も同じことを言っていたのでは?
どうも日本は、第2次世界大戦時と似た状況に陥っている。なんの勝算もないのに戦争に突っ込み、形勢が悪化すると、見通しのない大作戦に出て負ける。そして作戦失敗の責任を問われないように大本営発表を繰り返し、何度も同じ間違いをしては滅びていくのだ。
思えば、誰も責任をとらずに不良債権処理に失敗して「失われた10年」となった。そこで「一発逆転」を狙って小泉構造改革というミッドウェー海戦に乗り出した。結果、戦艦も空母も沈んでしまい「失われた20年」となった。実際、1人当たりのGDPは3位から19位に転落。半導体、スパコン、電機……どれもこれも世界シェアを落とし、郵政民営化がすべてだと煽った「金融自由化路線」は、ついに世界金融危機に行き着いてしまった。ところが、誰も責任をとらず、またぞろ「さあ、TPPで日本経済は一発逆転だ」と言い出している。
もちろん「勝算」のシナリオがないので肝心の情報は隠す。TPPの24の交渉項目には、日本の自動車の安全基準は厳しすぎる、農薬の基準が厳しすぎる、電気通信の電波帯をよこせ、郵政事業に参加させろ、混合診療を認めて民間保険を入れろといった内容が並んでいる。小泉時代より米国の「年次改革要望書」が露骨になったものなのに、その中身が一切報じられていない。
結局、大手メディアは、小泉改革を煽った手前、今さら小泉改革が成長戦略として根本的に失敗したことを認められないのだ。このままでは、日本経済はあと数年で玉砕覚悟の「本土決戦」を迎えてしまう。竹ヤリの準備が必要になりそうだ。(隔週火曜掲載)