菅政権:狭まる包囲網 公明、解散に照準 社民は「野党宣言」
(毎日新聞 2011年2月22日 東京朝刊)http://p.tl/xCTC

 <分析>

 「ねじれ国会」克服を探る民主党の手詰まり感が強まっている。「春政局」のカギを握る公明党は衆院解散へと照準を定め、社民党は野党共闘へと軸足を移す。一方、民主党非主流派の小沢一郎元代表も解散をにらんで地域政党に触手を伸ばし、執行部をけん制する。菅政権への「包囲網」が狭まりつつある。

 ◇公明、解散に照準

 公明党が4月の統一地方選後に衆院解散・総選挙を目指す方向へ意思統一を始めた。民主党側には菅直人首相の退陣による局面打開論や、統一選後に公明党が軟化することへの期待があるが、公明党は協力の条件を衆院解散の確約に絞り込む方針だ。菅政権は5、6月の解散を約束して予算関連法案への協力を求めるか、法案不成立の混乱を覚悟するかの選択を迫られそうだ。

 小沢元代表に近い衆院議員16人の造反圧力によって、菅首相は衆院再可決による法案成立路線の修正に追い込まれている。残された選択肢は、参院に19議席を持つ公明党の協力を取り付けることだ。

 しかし、菅政権に向ける公明党の視線は極めて険しい。代表経験者の一人は「これからの政局は首相のクビのすげ替えや、統一選の終了では決着がつかない」と断言する。子ども手当法案について、15日に民主党の仙谷由人代表代行から協力の打診を受けた公明党の漆原良夫国対委員長は「政局法案だからだめだ」と言下に断った。

 公明党が自民党と歩調を合わせて解散路線にかじを切ったのは、支持母体である創価学会の意向を色濃く反映しているためだ。関係者によると、原田稔会長、正木正明理事長、谷川佳樹副会長ら中枢ラインは民主党に非妥協的だという。

 特に選挙の実動部隊となる学会婦人部では「09年の衆院選を『民主VS自公』で戦ってから1年半しかたっていないのに、安易な方針転換は認められない」という意見が大勢を占めている。菅氏や仙谷氏が野党時代に「反公明・反学会」発言を繰り返したこともしこりになっている。

 学会指導部の一人は「公明党が統一選後に協力に転じることは、もはやない。協力の条件は菅さんの退陣と新首相の下での速やかな総選挙だ」と語る。別の幹部は「(統一選第2ラウンドの)4月24日なら総選挙とのダブルでもやれる」と踏み込み、あくまで衆院解散・総選挙に追い込む考えを示した。

 ◇社民は「野党宣言」

 社民党は21日、衆院予算委員会の野党理事による懇談会に復帰した。同党は11年度予算案を巡り民主党と修正協議を続け、小沢元代表の証人喚問にも消極的だったため、1月27日以降、野党6党の国会対策の協議から締め出されていたが、社民党幹部は「民主党との連携を考える段階は終わった」と「野党宣言」した。

 社民党の阿部知子政審会長は18日の衆院予算委理事会後、自民党の武部勤筆頭理事に「私たちも野党。(懇談会に)入れてほしい」と「復縁」を要請。武部氏は、社民党が予算関連の特例公債法案などに反対方針を固めたことを評価し「では月曜(21日)から」と応じた。

 社民党は普天間飛行場移設関連経費の削除などを突き付けたが、民主党は難色。さらに同党衆院議員16人が会派離脱届を提出し、衆院で6議席の社民党が衆院での法案再可決をカードに譲歩を迫る戦術はほぼ消えた。党の消長がかかる統一地方選に専念するため衆院解散による混乱は避けたいのが本音だが、民主党への「すり寄り」に対する地方組織の不満に配慮せざるを得ない事情もある。

 社民党は22日、両院議員懇談会で予算案などの反対を確認し、民主党との幹事長会談で伝達する構え。子ども手当法案に関しては修正協議を続ける方針だが、社民党幹部は「法人税減税やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)など、菅政権は新自由主義的になった」と強調する。【中川佳昭、野原大輔、笈田直樹】

 ◇小沢元代表、地域政党に触手--原口前総務相に連携示唆

 「民主党の原点を大事にしながら、広く糾合していくのが大事だ」。小沢元代表は21日、国会近くの個人事務所を訪れた原口一博前総務相に、地域政党を率いる橋下徹大阪府知事や河村たかし名古屋市長との連携を探る考えを示唆。党分裂も辞さない構えを示し、22日に党員資格停止処分を正式決定する方針の執行部を揺さぶった。

 小沢元代表は側近議員に対し、予算関連法案の成立見通しが立たないことを背景に「この1~2週間が正念場だ。首相は解散を打つかもしれない」と指摘。政権運営に行き詰まった首相が解散に踏み切る可能性に触れている。

 一方、原口氏は東京都知事選への出馬に意欲を示す東国原英夫前宮崎県知事とも会談。原口氏が来月にも発足させる政治団体「日本維新の会」への参加を促し、東国原氏は「微力だが汗を流す」と応じた。

 原口氏は23日に政治団体の土台となる地域主権勉強会「日本維新連合」を発足させる。河村氏は自ら率いる「減税日本」の国政進出に意欲を示しており、「反消費税」などで連携を探る動きもあり、小沢元代表を「触媒」とする連合体になる可能性もある。また、小沢元代表を支持し、会派離脱届を提出した比例単独当選の衆院議員16人のうち8人は国会近くの事務所で初会合を開いた。渡辺浩一郎衆院議員は菅政権の消費税増税の動きを批判。定期的に会合を開くことを確認した。

 これに対し、執行部は巻き返しに懸命だ。21日午後の役員会では16人の離脱届を受理せず、説得を続けることを確認。岡田克也幹事長は党幹部に対し、首相の進退に関わる発言を控えるよう要請。記者会見では「(昨年9月の代表選で)どちらを応援したかは別にして首相を支え切る決意で対応してもらいたい」と結束を求めた。

 「党の処分は処分としてけじめをつけなければいけない」。首相は21日夕、記者団に強調したが、小沢元代表の動きには神経質だ。同日夜には、小沢元代表と会談したばかりの原口氏を東京・赤坂の日本料理店に誘った。日本維新の会について説明した原口氏に対し、首相は「地域主権改革をすぐやろう」と応じた。