「エジプト 2.0」~エジプトの新しい民主社会構築のために、どうソーシャルメディアが使われているのか?

市川 裕康 ソーシャルビジネス最前線

(現代ビジネス2011年02月22日)http://p.tl/fpie




「日々坦々」の資料ブログ



「2月18日、タハリール広場で勝利を祝うエジプト市民 *ワエル・ゴニム氏のツイートより」


 前回の記事『「エジプト革命」でソーシャルメディアが果たした役割とは?』に続き、今回は「エジプト民主革命」の今後、国創りのプロセスにおいて、ソーシャルメディアがどのような役割を果たしているのか、その萌芽となるようないくつかの動きをご紹介したいと思います。

■インターネットを通じてエジプト社会の今後必要なこと、アイディア、夢を募る試み

 「エジプト革命」のきっかのひとつとなったフェイスブック・ページ「We are all Khaled Said」の運営者であり、反政府運動の中心人物の一人とされていたワエル・ゴニム氏(31歳)は、ムバラク大統領後辞任直後に、あるウェブサイトを立ち上げました。

 サイトの名前は「Egypt 2.0, what does we need? What are our dreams?! (エジプト 2.0、私たちは何を求め、どんな夢を持っているか?!)」で、ゴニム氏が勤務するグーグル社のサービス、「Googleモデレーター」という無料サービスを利用して、直接エジプト国民から今後のあるべき政策、アイディア、夢を募っています(サイトはアラビア語で運営)。ムバラク大統領辞任直後に立ち上げられたこのサイトには、2月20日の段階で約39,000人が登録し、5万近くのアイディアや要望が寄せられています。

 「Google モデレーター」は2008年12月、オバマ大統領候補が米大統領選に勝利した後、就任までの移行期の間に開設されたサイトでも利用され、アメリカ国民から新政権に対する要望、アイディアを募る目的で活用されたことがあります。

 日本でも2008年の衆議院選挙の際、グーグル日本法人が「未来のためのQ&A」というサイトを立ち上げたことが話題になりました。立候補予定者に向けた質問と投票を受付け、立候補予定者がビデオ回答を行い、ウェブ上で掲載するというような形で活用されました。

今回エジプトで驚くほど短期間でサイトが開設され、数多くのアイディアを募ることが可能になっているのは、多くのエジプト市民が、自分たちの力とアイディアで、よりよい社会を築くことを強く願っているからといえます。寄せられたアイディアの中で、特に人気があるアイディア・要望の中には、以下のようなものがあります。

・「国の将来への投資として教育は最重要課題で、教育システムを構築するために緊急の委員会を設置が必要」
・「選挙の投票制度を見なおし、電子化した投票システムや、選挙の際に国民にIDを付与すべき」
・「医療制度全体の再生が必要、公立病院はより清潔にし、患者に対する配慮が必要」
・「過去20年の間に権力が集中した警察を改善するために内務省の改革が必要」

■世界の人々をエジプトの観光地に呼び戻すためのキャンペーン動画「エジプトより愛を込めて(From Egypt with Love)」

 エジプトのGDPの13%、そして約9人に1人の雇用を支える観光業(WTTC調べ)は、今回の反政府デモや治安の悪化の影響を受け、少なくとも31億ドル(約2550億円)の経済的損失を被った、と報じられています。実質失業率が20%を超えるといわれるエジプトにおいて、1日も早い日常への回帰、そして世界中の観光客が戻ってきてくれることは重要な課題です。

 そんな国民の願いを象徴するユーチューブ動画が2月17日に有志により公開され、既に20万人を超える人に視聴され、多くの共感を集めています。人懐っこい笑顔で「エジプトより愛を込めて」と英語、ロシア後、フランス語、ギリシャ語、イタリア語、韓国語、日本語で語りかけます。



米ビジネス誌「ファストカンパニー」の記事によると誰が運営しているかは定かではないとのことですが、エジプトという国のブランディング、マーケティングの努力がこうしたソーシャルメディアの活用を抜きにして語ることができなくなっている様子が伺えます。

ソーシャルメディアを活用するのはもはや若者だけではありません。2月17日、エジプトの軍最高評議会は、公式のフェイスブック・ページを開設し、市民との直接対話に乗り出しました。

アラビア語で運営されている同ページには、「本日から息子たちと意見交換ができてうれしい。どんな質問にも24時間以内に答えます」と宣言し、「エジプトの人々、特に(反政府デモを始めた)"1月25日の若者たち"との対話を希望します」と呼び掛けられています。

 このフェイスブック・ページには開設から24時間の間に約7万5千人の人々が「ファン」となり、2月21日の時点で既に41万人近い人が登録するほど広まっています。

 サイトへの一般的な投稿に対し、例えばたった12時間で約1万4千件のコメントが寄せられ、1万5千の「いいね!」ボタンがクリックされるような、共感を呼ぶコミュニケーションが相次いで交わされているようです。今まで長い間、国民に対して圧政を敷いてきた政府が、こうして透明性を持った、双方向のコミュニケーションチャンネルを持った意義というのは、決して見過ごすことができない、将来に向けての一歩と言えるのではないかと思います。

 既にチュニジア、エジプトのみならず、反政府デモ活動の動きは中東全域に拡がり、各国の軍、治安部隊との衝突により数多くの死者を出し、犠牲者の数は増える一方です。そんな中、インターネット接続が遮断され、厳しく検閲されている国もあるのが現状です。

 ここで改めて、フェイスブック創業者マーク・ザッカーバーグが創業時から訴え続けている、ソーシャルメディア時代の考え方、価値観についての言葉を思い出します。 

「情報を共有し透明性を持つことで、お互いが学び、コラボレーションが生まれ、社会がよりよい方向に導かれる。」

 昨年の記事、『「フェイスブック・エフェクト」~マーク・ザッカーバーグとフェイスブック創業の物語』でこの点にについて書いた際には、社会の中でこうした考え方が受け入れられるには、まだまだ時間がかかると思っていました。今回の一連の中東での反政府デモ活動、そこで果たしているソーシャルメディアの役割を見るにつけ、以前より現実味を持って、ザッカーバーグの信念に共感出来る自分がいます。現在政府との民主化運動が激しく衝突している地域でも自由なコミュニケーションが確保され、社会がよりよい方向に向かっていくことを願います。