自民も民主もダメ 菅政権の罪は重大 (日刊ゲンダイ2011/2/23)

菅首相は誇大妄想だ

国民新党の亀井静香代表が週刊朝日のインタビューで、菅の暴走を批判していた。

〈(与謝野大臣の起用や社会保障改革の集中検討会議について)菅さんは事前に一言も俺に相談しなかった。だから、「あんた、与党のうちに相談せずにこんな大事な会議を作るなんてけしからんじゃないか」と抗議した。すると菅さんは「これからは直接、私から必ず電話します」と言い訳していた〉
似たような話は、桜井充財務副大臣も言っている。
「(菅首相は)十分に党内の意見を聞く作業をしてこなかった。環太平洋連携協定(TPP)の参加問題でも突然出てきたところがある。きちんとみんなで話をする手続きが足りないのではないか」(20日、フジテレビ)
2人の話を総合すると、菅の狂気の独善が浮かび上がってくる。つまり、「社会保障と税の一体改革」や「TPP参加」について、あれだけ力んでいるくせに、与党内や閣内で意見調整や根回しは一切せず、ひとりで突っ走ったのである。

なんだか、昨年の参院選前の消費税騒動とダブってくるが、今度はもっと始末が悪い。菅は21日の国会では「(社会保障と税の一体改革は)避けては通れない重大な課題だ。私はそのために、まさにこの時期に政権を預かった。その歴史的使命を感じて頑張り抜きたい」と仰々しく語った。
TPPについては再三、「平成の開国」という言葉を使って、志士気取りだ。
どうかしているのではないか、菅は。根回しゼロ、戦略なし、思いつきの“夢物語”なのに、ひとりでコーフンしているアホらしさ。これぞ誇大妄想狂というのである。

◆予算関連法案も通らないのに消費増税の狂気
大体、菅は自分の置かれている状況が分かっているのか、と言いたくなる。会派離脱届を提出した民主党の衆院議員16人が「造反」すれば、11年度予算すら執行できないありさまなのだ。党内でも首相のクビと引き換えに予算関連法案の成立を探る動きが噴出している。
取り巻く環境は厳しさを増し、「社会保障と税の一体改革」や「平成の開国」どころではないのである。
それなのに、菅は「オレが辞めても、国の借金が1000億、2000億円減るわけではない」と豪語、意気軒高だというから、常軌を逸している。

恐らく、頭の中にあるのは、驚くほどの「無邪気さ」なのだろう。与謝野馨を閣内に取り込み、自民と同じ「消費税増税を含む税制抜本改革」法案を出せば、自民も協議に応じると単純に思い込んだフシがある。予算関連法案が通らなければタナざらしにすればいい。そうすれば批判は野党に向く。この間に、社会保障と税の一体改革を提示すれば、必ず支持は戻るという、恐るべき楽観論である。
政治評論家の浅川博忠氏はこう言う。
「てんで分かっていませんね。与謝野氏の一本釣りは与野党の反感を買っただけでなく、柳沢伯夫元厚労相まで首相直轄の諮問機関に引き込んだことで、民主党らしさも失われ、自民には冷笑されてます。冷静に考えれば、こういう結果を招くことは分かるはずですが、“首相として歴史に名を刻みたい”という無邪気な欲望が先走りしたのでしょう。最近ことさら社会保障と税の一体改革を『世紀の大事業』のように強調しているのも名誉欲にとらわれている証拠です。仮に下野することになっても前人未到の事業に道筋を付けた、と思いたいのでしょう。もはや、やぶれかぶれの心境なのだと思います」
ねじれ国会、しかも、支持率1割台のスッカラ菅首相が何を血迷っているのか。菅が予算そっちのけでやろうとしていることは狂気の沙汰というしかない。

◆民主党執行部は単細胞集団というしかない

首相が誇大妄想に取り付かれても、側近がフォローに回って何とかすればいい。だが、今の民主党執行部や官邸側近は菅に輪をかけた単細胞の集まりだから、どうにもならない。

中でも最悪なのが、岡田幹事長だ。ねじれ国会で予算を通すには、何が何でも野党に修正協議に応じてもらうしかないのに、まるで泥をかぶろうとしないのだ。
「根回しなど55年体制と変わらず、やるつもりはない」とカッコをつけ、予算関連法案の行く末を聞かれると、「先のことはあまり論じない方がいい」とか言うのだから論外だ。そもそも衆院の再可決に活路を求めるのであれば、小沢切りなどしなければいい。やっていることが支離滅裂なのである。

政調会長を兼ねる玄葉光一郎国家戦略相や、安住淳国対委員長ら他の党幹部も岡田と似たり寄ったりの頭デッカチだ。
「民主党の国対はまったく機能していません。政治とは『妥協の産物』だということが理解できず、野党との落としどころを想像する能力に欠けています。民主党の若手は偏差値エリートばかりで、水面下での裏工作といった“汚れ仕事”ができない。自民党との折り合いはつかず、公明党に逃げられ、社民党にもソデにされた。この期に及んで『統一地方選が終われば公明党が協力してくれる』と淡い期待を抱いているのだから、甘すぎます。国対は素人同然で、あまりの拙さに野党議員は皆、アキレているのが現状ですよ」(政治アナリスト・伊藤惇夫氏)

◆排除の論理しかない頭デッカチの危うさ

そういえば、16人の反乱の当日、前原外相グループや野田財務相グループの会合では「中途半端なことはしないで、離党すればいいじゃないか」「今日中に16人を処分すべきだ」との強硬論が巻き起こったという。
衆院で法案再可決に必要な3分の2議席には、与党会派所属の全議員でも足りず、さらに7人が必要だ。

16人を処分すれば、その瞬間に「3分の2」を失うのに、この言い草。バカの集まりというしかない。
幅広い意見を聞き入れず、懐は狭く、排除の論理で突き進むだけなのが、今の頭デッカチ民主党執行部なのである。
政権交代の立役者であり、“仲間”の小沢切りに血道を上げた時もそうだったが、彼らの独り善がりの発想は危うい。大局観もなく、ただ怨念で「連合赤軍のリンチみたい」(民主党衆院議員)に小沢の党員資格を剥奪したが、それでどうなるのか。自分で自分のクビを絞めているのだから、本当にオメデタイ連中だ。

◆歴史が語る政党不信が招く恐ろしい事態

民主党は党内だけでなく、官邸を見渡してもロクな人材はいない。枝野官房長官は存在感ゼロ。各省庁の役人は仙谷前官房長官の元に通っていて、今や「官邸は機能不全」(民主党幹部)が、霞が関の常識だ。
さらに福山哲郎官房副長官や寺田学首相補佐官にいたっては、まるで菅の“お稚児さん”のようだ。

「菅さんは国会答弁に備えて、早朝から福山官房副長官らと勉強会を開いています。そこで菅さんは怒鳴りまくっているのだけど、しばらくすると、居眠りをしてしまう。福山らはそれを呆然と眺めているだけです」(官邸事情通)

こんなマンガみたいなことをやっている間にも、国民の政治不信はドンドン広がっている。時事通信の最新調査では「支持政党なし」の無党派層が、有権者の65・4%にも上った。政権交代直後の09年10月の調査では43・9%だったから、実に20ポイントもの上昇である。
「自民もダメ、民主もダメで、行き場を失った民意がどこに向かうのかが心配です。既存政党への不信の高まりは、“英雄願望”に直結しやすい。政党政治の否定は独裁政治にもつながるのです。日本の民主主義は、瀬戸際の危機を迎えていると思います」(立正大教授・金子勝氏=憲法)

既成政党に対する不信が戦前の軍部の台頭を招いたことは歴史が雄弁に物語っている。一体この国はどうなってしまうのか。
国民が熱狂した政権交代の期待を裏切り、ここまで政治不信を拡大させた菅の罪は、万死に値するというものだ。



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