驚くに足りない東京都知事選の石原氏不出馬・松沢氏擁立。気になるのは石原伸晃自民党幹事長によるリークの意図だ

週刊・上杉隆
(DIAMOND online 2011年2月24日) http://p.tl/CmUz

 三月の暦が近づいてきて東京都知事選が俄然、盛り上がりを見せてきた。

 なにしろ予算総額12兆円、職員数17万人、人口800万人を超えるスーパー自治体のトップを決める日本最大の選挙だ。

 しかも大阪府や愛知県のように政令指定都市を持たないことから権限そのものも強大になっている。

 GDP換算でも世界のトップレベルに入るほどの「大国・東京都」、いよいよ本番に突入だ。

 4年ごとになるが、筆者は都知事選について毎回「週刊文春」でレポートを発表している。今回で3回目。鳩山邦夫秘書として戦った99年を含めると4回目の都知事選となる。

 きょう発売の「週刊文春」が第二弾になるのだが、その校了直前、次のようなニュースが飛び込んできた。

■長く都政を見ている者には「合点の行く話」

〈東京都の石原慎太郎知事(78)が、4月の都知事選に出馬しないことが22日、分かった。長男で自民党の石原伸晃都連会長らが支援者らに伝えた。石原知事 らは後継候補として、神奈川県の松沢成文知事の擁立を進めている。自民党都連は石原知事への出馬要請に向け準備を進めていたが、戦略の練り直しを迫られている。候補者選びに難航する民主党へも影響しそうだ〉(産経新聞ウェブ版2011.2.22 16:02)

 隣県の松沢神奈川県知事が石原都政の後継?

 きっと読者の多くはそう思い、このニュースがいかにも唐突に感じられるだろう。

 だが、12年間都政を見ている者からすれば、そうでもない。「ああ、なるほど」と合点の行く話なのである。

 それは、このスクープ記事を執筆した産経新聞の石元悠生記者も同様だ。都政最長の社会部記者であるからこそ書けた記事なのである。

 結論からいえば、これは首都圏構想の始まりにすぎない。

■2007年に「初代首都圏知事就任を目指す」とぶち上げた松沢神奈川県知事

 ちょうど10年前(2001年)、石原慎太郎都知事が打ち出したのが、最大の政策こそが「首都圏メガロポリス構想」だ。2001年に石原知事が発表したその構想は次の通りである。

〈東京都では、首都機能を担う首都圏メガロポリス※の整備の方向性を示す「首都圏メガロポリス構想」を策定しました。

 首都圏メガロポリスは、イギリス一国に匹敵する生産力を持つ世界最大の都市圏です。しかし、現在、経済の低迷、自動車による大気汚染、首都移転問題など様々な危機に直面しており、七都県市の連携により首都圏メガロポリスの再生を図ることが不可欠です。

 このため、本構想を策定し、都民をはじめ広く国民や国及び首都圏メガロポリスの行政主体に対し提唱することにより、首都圏メガロポリスの再生に向けた七都県市による将来整備構想の確立と、共同の戦略的取り組みの展開の契機となることを目指すものです。

※七都県市(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・横浜市・川崎市・千葉市)のおおむね首都圏中央連絡道路に囲まれた区域〉(東京都都市整備局HPより)

 2003年、松沢神奈川県知事、上田きよし埼玉県知事が誕生することで、この構想の動きが加速する。中田宏横浜市長も同調し、現実味を帯びてくる。成田空港を抱え反対に回った千葉県の堂本暁子知事を除けば、その時点で環境はずいぶんと整っていたのだ。

 さらに2007年の地方選挙では、4選禁止を打ち出し、トリプルスコアで勝利した松沢神奈川県知事が「初代首都圏知事就任を目指す」とぶち上げた。

 この年の選挙では、石原、松沢、上田の3知事がお互いの選挙応援に駆けつけるという姿もたびたび見られた。


 そして、今回、いよいよ首都圏知事に向けて動き出したというのが、都知事選取材をしてきた者の感想なのである。

 首都圏構想によって何が可能か。その狙いは前出の東京都HPに10年前から掲載されている。

<・首都圏メガロポリス再生に向けた、目指すべき「21世紀の首都像」とその実現を図る「圏域づくり戦略」を明らかにしました。
・「圏域づくり戦略」は、首都圏メガロポリスの約3,300万人の集積のメリットを生かす「環状メガロポリス構造の構築」と圏域の一体的機能発揮を実現する「広域連携戦略の展開」により構成されます。
・七都県市が共同して取り組むべ広域連携戦略として、交通、防災、環境など13の課題ごとに個別の具体的連携戦略を明らかにしました。
・首都圏メガロポリスにおいて、基本的インフラが完成したときの整備効果について、シミュレーションを行い把握しました〉(東京都都市整備局HPより)

 この構想を胸に、おそらく石原都知事、松沢県知事は連携していたのだろう。それが今回の「松沢後継指名報道」の真相だ。

 だが今回、その構想が漏れた時期が少し早すぎたようだ。

 それは石原伸晃自民党幹事長のリークによるものだが、果たしてその意図は。

 単に、父親の首都圏構想を理解せずに口が軽かっただけか、あるいは「松沢つぶし」のためにそうしたのか。今後、取材していこうと思う。