国民生活より権力維持が第一の菅首相 (日刊ゲンダイ2011/2/25)

ヤマ場の政局

菅首相が「国民生活にとって最も重要」と訴える予算の不成立が確実になっている。本予算は多数を占める衆院で可決されて成立する見込みだが、関連法案はボロボロだ。頼みの公明党と社民党は特例公債法案への反対を決め、民主党も予算案と切り離して採決を先送りせざるを得なくなった。もっとも、先送りしたところで成立する見込みはない。八方塞がりの状況は何ひとつ変わっていないのだ。

それでも菅に危機感はないようだ。野党を切り崩そうともせず、ボケ~ッと惚けている。法大教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「菅首相には、危機を自覚するだけの能力もないのでしょう。普通なら、何とか局面を打開しようとして、もがきますよ。政策を見直したり、野党へのアプローチを変えてみたり、臨機応変に動くものです。ところが、菅首相はワンパターンで、知恵を絞ったり工夫をしたりしない。公明党にすり寄って参院で過半数か、社民党に流し目で衆院で3分の2を確保しようとするだけです。その一方で、小沢元代表を締め上げて支持率回復を図るという戦略。この2、3カ月、ずっと同じ。そこで完全にフリーズしてしまった。安倍さんならとっくにお腹が痛くなっているだろうし、福田さんなら『あなたとは違うんです』と政権を放り出し、麻生さんなら破れかぶれで解散に突き進むところです。しかし、菅首相はアッケラカンとしている。この鈍感さには呆れるし、驚きます」
法案が不成立のまま新年度を迎えれば、野党も動かざるを得ない。どうやら菅はそう思い込んでいるらしい。

◆菅降ろしのクーデターは始まったばかり

しかし、どっちが先に譲歩するかの“チキンレース”を挑むつもりなら、少なくとも党内をまとめなければダメだ。民主党が一丸となり、関連法案に反対する野党の無責任ぶりを攻撃すれば、メディアの応援を受けられる見込みも出てくる。そうなれば、世論も味方につけられるし、中央突破に活路を見いだすことも可能だ。まずは足元を固めるのが必須なのである。

ところが菅には求心力がない。党内は反乱、内紛でグチャグチャだ。
比例単独の衆院議員16人が会派離脱願を出したのに続き、きのうは松木謙公農林水産政務官が辞表を提出。あれよあれよという間に菅離れは進んでいる。火の手は地方からも上がった。民主党の愛知県議団も国会に詰めかけ、「現状は麻生政権崩壊前夜と変わらない」と批判。衆院選マニフェストの実現を迫った。
「党内の菅降ろしは始まったばかりで、本格化するのはこれからです。小沢系の若手議員の間では、先兵となった16人の後を追う第2弾のクーデターがささやかれています。党内はグチャグチャで統一地方選は記録的な大惨敗が避けられない情勢です。なんとか踏みとどまっている海江田経産大臣や三井辨雄国交副大臣ら閣内の小沢系12人も、次々と辞表を提出するでしょう。こうなると歯止めが利かない。だれもが泥舟から逃げようと右往左往し、政権は支えを失って崩壊する。そのときは、さすが菅首相も、自分が置かれている状況を把握するはず。バンザイするしかないでしょう」(民主党事情通)

いざとなれば菅は、破れかぶれで解散に踏み切る考えなのかもしれないが、どうせ後ろから羽交い締めされて終わり。椅子に抱きつき、泣きながらイヤイヤをしても、引きはがされて官邸を追い出されるのだ。


◆昨年9月から予想されていた小沢系の蜂起

それもこれも、菅が小沢を排除したのが原因だ。だれに知恵をつけられたのか知らないが、党内ナンバーワンの実力者を政権から遠ざければ、ニッチもサッチも行かなくなるのは目に見えていた。実際、昨年9月に反小沢政権を立ち上げたとき、多くの専門家は「このやり方では政権が持たない」と指摘した。その予想がズバリ的中した格好である。

16人が会派離脱願を出したとき、菅は「まったく理解できない」と言っていた。しかし、周囲はいずれそうなると見通していた。松木の辞任に「大変残念です」とか言っていたが、アホ丸出しだ。
「菅首相には、まともな政治感覚がないのです。民主党の中で最も頼りになるのは小沢元代表です。剛腕といわれるだけあって、利害を調整して物事を前に進める政治力はハンパじゃない。菅首相は、いくら野党に攻められても、小沢元代表を守って恩を売ればよかったのです。そうすれば、政権は安定軌道に乗せられたはず。少なくとも内部から崩壊する恐れはなかった。それなのに菅首相は、“代表選が終わればノーサイド”と言いながら、小沢元代表をイジメ抜いた。自らノコギリで自分の手足を切り落としたのです。もしかしたら、『小沢はブタ箱行きだ』とだれかに吹き込まれていたのかもしれません。しかし、小沢問題は証拠もない見込み捜査だったことは明白。ガセネタに踊らされた不明を嘆くしかありませんね。自業自得です」(政治評論家・本澤二郎氏)
政策も政局もドシロウトでは、行き詰まるのは当然である。

◆最低首相として「歴史」に名を刻む

ところが、菅はあきらめが悪い。自民党に「われわれが丸のみできる案を出して」と持ちかけ、権力の維持に必死だ。ハナから相手にされず、完全にフラれているのに、「悪いところがあったら直すから」「何でも言うことを聞くから」と追いすがる。まるで変質者かストーカーだ。
自民党の谷垣総裁は「野党案を政府がのむなんて、エイリアンと言うか……」と呆れていたが、「ミスター鈍感」には分からない。

菅は「歴史に対して責任を持て」とか「歴史に対する反逆だ」とか、やたらと「歴史」を口にするが、野党丸のみの予算案を成立させるデタラメなやり口で延命すれば、それこそ歴史への冒(ぼう)賣(とく)だ。
「このまま退陣となれば、いったい、菅政権とは何だったのか、歴史的にどんな意味があったのかとなりますよ。せっかく政権交代したのに、菅政権として残したものは何もない。わずかに実績といえるものは、肝炎など訴訟になっている問題について方向が示されたことぐらい。その程度で混乱のうちに総辞職か解散となれば、菅直人という政治家は歴史的にまったく評価されないでしょうね。もともと菅首相には、これをやりたいというものがなかったのだから無理もありません。必死になっている消費税増税とTPPは、首相になる前から提唱していたものではありません。政治家として長年抱えていたテーマもなく、首相になったのです。史上最低の総理ですよ。内閣支持率でいえば、森さんや竹下さんは数%にまで低下したし、安倍さん、麻生さんは能力が不足していた。しかし、菅首相は、そのだれよりも未熟でレベルが低い」(五十嵐仁氏=前出)

そんな最低首相が政策責任者でいる限り、国民の暮らしは良くならない。政権に居座り続けることで国民に打撃を与える自爆テロみたいなことはやめて、「国民の生活が第一」に立ち返り、最善の策を考えるべきだ。



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