小沢氏元秘書への“立証の対象にしない裏献金”とはどういうことか?大手メディアの情報操作を検証する

週刊・上杉隆
(DIAMOND online 2011年3月3日) http://p.tl/QMv1

 東京FM「タイムライン」にレギュラー出演している。番組冒頭、その日のニュースが何本か読まれる。今夕、そのうちのひとつに対して、どうしても納得のいかないものがあった。

〈「裏献金」立証せず 小沢公判で指定弁護士 元秘書との「共謀」焦点〉(共同通信)

 こうしたタイトルの放送記事だった。念のため、共同通信のウェブに当たると、微妙にニュアンスが変わって、次のようなタイトルになっていた。

〈小沢氏公判で「裏献金」立証せず 検察官役の指定弁護士〉(共同通信ウェブ版)

 本コラムでは、別途入手した共同通信の放送原稿を元に、日本の大手メディアではどれだけひどい情報操作が行われているかを検証してみる。(以下とくに断りのない引用はすべて共同通信から)

■「検察官側」とはいったい誰か?あえて不正確な表現をする不思議

〈政治資金規正法違反の罪で強制起訴された民主党の小沢被告の裁判をめぐって検察官側はゼネコンから元秘書への裏献金の受け渡しについては立証の対象にしないことが関係者の話で分かりました〉

「小沢元代表」や「小沢議員」ではなく〈小沢被告〉という呼称がいかにも悪意に満ちているが、これは表現の自由の範囲なので問題はない。問題は次の表現だ。

〈検察官側は――〉。

 一般人が聞けば、いや政界関係者が聞いても、聞き逃してしまう仕掛けがここに施されている。よく見ていただきたい。この表記は「検察側」ではなく〈検察官側〉である。

検察は、一連の小沢疑惑について捜査の上2度にわたって不起訴にしている。つまり、ここでいう〈検察官側〉というのは検察役の弁護士のことである。

 なぜ、記者は正確に書かないのだろう。これではいまだに「検察庁」が捜査をしているかのような書きぶりだ。

■「立証の対象にしない」のなら、それを「裏献金」と書く根拠は?

 さらにその後の表現もひどい。

〈裏献金の受け渡しについては立証の対象にしないことが――〉

〈裏献金〉が立証の対象ではないということはどういうことか。つまり、それは「裏献金」ではなく表の献金だったということである。

 実際、水谷建設からの献金は水谷側(水谷功会長)も、小沢側(石川知裕議員、大久保隆規秘書)もともに否定している。

 また、西松建設からの献金は表の献金だったことがすでに裁判で認められている。

 となると、〈ゼネコンから元秘書への裏献金〉とする根拠がなくなってしまう。では、いったい記者は何を根拠に〈裏献金〉と書いたのだろうか。

 共同記事はこう続いている。

〈これにより小沢元代表の裁判の争点は、資金管理団体「陸山会」の収支報告書にうそが記入された事件について元秘書との共謀があったかどうかなどに絞られることになります〉

 私には日本語を読解する力がないのだろうか。この文章はどう読んでも意味が通じないのだ。

 とくに〈うその記入された事件〉という意味が皆目分からない。いったいいつ陸山会の収支報告書に〈うそが記入された〉のだろうか。

 そもそも、その〈うそ〉とは何か。まさか金額の合致している「期ズレ」を〈うそ〉と言っているのだろうか。いや、そんなはずはないだろう。では何か。もしかして、私の取材不足で新たな疑惑(うそ)が生じたのかもしれない。

〈ただ、検察側は明確な証拠が得られていない状況です〉

 またもや難しい日本語が出てきた。この〈検察側〉とはいったい何を指すのか。

 1年半にわたる検察庁の捜査は結果「不起訴」となり、すでに終結していることは先に述べた(第160回)。ところが、ここでは〈検察官側〉ではなく、〈検察側〉となっている。

 まさか、わざと間違えるとは思いたくないが、この書き方では、いかにも検察の捜査がまだ終結していないかのような印象を受ける。とくにそこまで注意深くニュースを聞いていない一般人はなおさらだろう。

■たったこれだけの短いニュースも注意深く読めばこれだけの欺瞞が

 こうした情報操作は日常的に行なわれている。この短いニュースの中にもこのように再三にわたって出てくるのだ。

 この欺瞞に満ちた記事は次のような一文で終わる。

〈このため検察官役を務める指定弁護士は、小沢元代表の有罪を立証していく上で裏献金があったかどうかを関連付ける必要性はないと判断し裏献金の受け渡しについては立証の対象にしないことを決めたもようです〉

 これほど難解な日本語をみたことがない。〈有罪〉〈裏献金〉〈裏献金〉と記者は書いているのだが、それはつまり、一言で言えば「表の献金で無罪」ということではないのか。

 しかも、最後になってやっと〈検察官側〉〈検察側〉ではなく、〈検察官役を務める指定弁護士〉と正確に書いている。

 いったい日本の大手メディアは何をしたいのか。こんな情報操作をしているヒマがあったら、別の事件を追ったらどうか。

 たとえば、政治資金収支報告書の虚偽記載で「政治とカネ」の問題を抱える前原誠司外務大臣の次の疑惑などはどうか。

〈前原誠司外相の関係政治団体「まえはら誠司東京後援会」の2009年分の政治資金収支報告書に、実際にはパーティー券を購入していない会社が、50万円分を購入したと記載されていることが1日、関係者への取材で分かった。

 前原氏側は「似た名前の会社を取り違え、誤って記載した」としており、近く詳細を説明する方針。

 収支報告書によると、前原氏は大臣就任前の09年4月12日、東京都内のホテルでパーティーを開催。約1820万円の収入があった。報告書では、このうち50万円分を千葉県四街道市にある番組制作会社が買ったと記載した。

 しかし、同社の代表は取材に対し「パーティー券を買ったことはない」と否定。報告書で同社の代表とされた人物名も、全く知らない人物だといい、「前原議員とは関係がなく、なぜこうなったのか分からない」と困惑した様子だった。

 前原氏側からは先月27日、「お騒がせして申し訳ない」という書簡が届いたが、今後の対応については書かれていなかったという〉(時事通信/2011/03/01)

 この「事件」を取材する方が、よほど容易だと思う。なにしろ小沢氏の記事のような難解な日本語は一切不要なのだ。