英特殊部隊、リビア化学兵器極秘確保へ (日刊ゲンダイ2011/3/3)


[春名幹男「国際情報を読む」]

(日刊ゲンダイ2011/3/3)
反政府勢力との戦闘で内戦の様相を示し始めたリビア。米英の情報当局が特に懸念しているのは、首都トリポリ南方の施設に保管されてきた化学兵器の行方だ。

リビア国内には、ひそかに英国の特殊空挺部隊(SAS)などが潜入、自国民の極秘救出作戦を展開している。
既に石油技術者ら150人を救出、地中海のマルタに運んだ。SASはさらに化学兵器も確保し、国外に運び出す工作を準備中、との情報が流れている。

リビアは2003年、米英首脳に対して、大量破壊兵器計画の放棄を約束し、査察を受けた。これを評価して、米国は04年に経済制裁を解除、さらに06年「テロ支援国家指定」も外した。
その際、マスタードガスやサリンを詰めた化学兵器弾頭約3300発が廃棄された。しかし、廃棄されないまま残されていたマスタードガスなどが昨年末で25トン。現在は約10トンを保有しているというのだ。ほかに、サリンの前駆物質も大量にあるといわれる。

先月、反政府勢力の蜂起が活発化したのを受けて、米政府はリビア当局に対して、これら化学兵器を完全に廃棄するよう求めた。これに対して、リビア側は「部外者のアクセス」を禁じる「適切な措置」を取ったと回答。しかし、化学兵器保管施設が現在どのような状況にあるのか、具体的な情報は不明。米政府当局者は国際テロ組織アルカイダの工作員に盗まれる可能性を懸念している。

リビアの旧化学兵器工場はトリポリの南西約65キロのラブタにあった。実は、この工場は日本と奇妙な因縁がある。22年前、日本企業が同工場で「化学兵器用の金属部品製造を助けた証拠がある」と米上院で指摘されたのである。
この問題は当時、航空自衛隊の次期支援戦闘機(FSX)の日米共同開発計画に絡んで、米議会の対日強硬派が持ち出した疑惑だった。最終的に上院は、FSXの日米共同開発を認めるかわりに、「日本企業はリビアの化学兵器開発に関与しない」との確認を当時のブッシュ大統領(父)に求める決議を可決した。
日本たたきが激しい時代に表面化したリビアの化学兵器工場。時代は移り、当時の対日強硬派の一部は今、中国たたきに奔走している。(木曜掲載)



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