小沢一郎と造反16人は正論だ (日刊ゲンダイ2011/3/4)

小沢排除は陰謀だった

大マスコミは詳細な報道を避けているが、民主党の小沢一郎元代表の元秘書の裁判がスゴイことになっている。石川知裕衆院議員ら元秘書3人の被告人質問が終了したが、彼らの裁判で明るみに出たのは、ア然とするような検察捜査のデタラメぶりだ。

脅し、すかし、泣き落とし――。取調室という密室で元秘書らを締め上げ、検察側の絵図に沿った調書にサインさせていく。小沢の強制起訴のキメ手となった「小沢の関与」を認めた石川の供述調書もヒドイものだ。担当検事が「オレと親しい検察上層部が『小沢の起訴はない』と言っているから」と石川を揺さぶり、署名させたのである。

「こうした取り調べには、証拠改ざん事件で起訴された前田恒彦元検事も参加。元秘書を相手に『小沢さんは終わりだ。ご無事をお祈りします』と凄みを利かせたかと思えば、前日の深酒を残しながら『オレも悪いことをやってきた』とシミジミと語り出すこともあったといいます。裁判では次から次へとハチャメチャ捜査が明らかになるものだから、傍聴席からは失笑が漏れるほどでした」(司法記者)

しかも、当の小沢本人の公判を前に、検察官役の指定弁護士が、水谷建設からの裏金1億円の立証を引っ込めてしまった。検察審査会の強制起訴の理由に「裏金1億円が入っていないから」とか言うが、冗談じゃない。
ゼネコンからの裏金が無ければ、単なる記載ミスである。修正で済む話で、秘書はともかくとして、小沢を強制起訴する意味はない。「政権交代の立役者」をぶっ潰し、法廷に引っ張り出しておいて、今さら「裏金の立証はやりません」はないだろう。

◆すでに崩れ去った検察ストーリー

元秘書3人の裁判の傍聴を続けているジャーナリストの江川紹子氏はこう言う。
「公判の過程で石川議員は、世田谷の土地購入に必要だった4億円を小沢氏から現金一括で受け取った日付を『04年10月12日』と主張。この4億円を1000万~5000万円の単位に分け、数日かけて計5銀行6支店の口座に入金しています。この分散入金が始まったのは04年10月13日。検察側が『石川議員が水谷建設から5000万円の裏金を受領した』とする『04年10月15日』よりも前なのです。銀行の入金記録も残っており、証拠採用されています。これでは“4億円の原資には水谷マネーが含まれている”“裏金を隠そうとして虚偽記載した”という検察側の描いたストーリーは破綻したも同然です」
もはや検察の描いた構図は音を立てて崩れ去った。「小沢も共謀」という秘書の証言も、恫喝まがいの取り調べでデッチ上げたことが分かってきた。

こうなると、09年3月の西松建設事件に端を発し、2年間に及んだ「政治とカネ」の大騒動は何だったのか。検察は土下座モノではないか。検察リークに乗っかり、グルになって小沢を叩きまくったマスコミも同罪だ。世紀の政治的謀略が元秘書の裁判で公然となってきたのである。

◆検察ファッショに便乗する 菅執行部の小沢排除

それなのに、この国では摩訶不思議なことが起きている。石川議員の決定的証言の中身はテンで報道されず、国民の間では「小沢=悪」の構図は定着したままだ。前田元検事らのデタラメ調書が小沢が検察審査会で強制起訴される判断材料に使われたのに、大マスコミはスットボケている。

検察のデタラメ捜査とメディアの暴走、それに乗せられた検察審の決定をよりどころにして、小沢切りに走った菅執行部は、どう落とし前をつけるのか。これがマトモな感覚というものだが、小沢排除に怒った16人の造反議員は、すっかり悪者扱いで袋叩き。メディアは「もっと厳しく処分しろ」と迫り、菅はすっかり元気になっている。メディアを味方につけて、党内の造反予備軍を抑え付けられるからだ。そうやって、世紀の無能首相が政治的謀略で居座ろうとしている。

つくづく、この国はデタラメだ。正義はあるのかと思えてしまう。
「結局、小沢氏のイメージダウンをはかった検察捜査は大成功なのでしょう。政治資金規正法違反という形式犯に過ぎない事件を“背後にもっと悪質な犯罪がある”とマスコミを通じて喧伝し、『小沢=悪』のイメージを国民に植え付ける。たとえ裁判に負けても、ハナから小沢氏の政治的影響力を殺(そ)ぎ、失脚させることが狙いだったのです。まさに『検察ファッショ』ですが、こうした悪魔的な動きに菅執行部は乗った。検察に便乗した小沢排除で政権維持をもくろみ、それが今なお、成功している。本当に危うい状況だと思います」(九大名誉教授・斎藤文男氏=憲法学)

今でも世論調査を行えば「小沢辞めろ」が8割を占める。何の疑問も持たず、大マスコミの偏向報道を信じている国民は「浅薄」だ。「いい加減、目を覚ませ!」と言いたくなるが、うねりを上げた「小沢排除」の流れは、もう止めようがないのかもしれない。

◆正論が通らず、歴史的犯罪人がまかり通る

小沢潰しの背景にはいろいろな勢力の思惑がある。既得権益の恩恵にあずかってきた旧勢力。ここには政治家、役人、財界、大マスコミが含まれる。さらに米国。親中で、米国にもズケズケ物を言う小沢では困るわけだ。さらに彼らにすがり、政権維持を企む売国政権。3者がタッグを組み、小沢排除の流れを作ってしまった。

16人の造反に代表される正義は木っ端みじんに砕かれ、日本はいつの間にか正論が通じない「息苦しい国」になってしまったわけである。その結果、国はどうなったのか。いまや、メチャクチャではないか。国民もいい加減に気づくべきだろう。
「16人の反乱は、小沢排除だけでなく、菅政権がマニフェストを逸脱していることに対する抗議でした。執行部はねじ伏せたが、それでは菅政権はさまざまな政策を党で論じたことがあるのか。首相が勝手に政策を変更し、それでも党がついてくると思っている。おかしいじゃないか、という声が出るのは当然なのに、それを造反と決め付け、処分する。つくづく、処分が好きな政党だし、そこには正義も何もありません」(政治ジャーナリスト・角谷浩一氏)

民主党政権を変質させ、改革者を潰して、平然としている菅首相と岡田幹事長は国の方向をねじ曲げた犯罪人として、おそらく、歴史に残る。それに国民が気づいていないところが恐ろしい。



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