こんにちは。本日は『昇圧剤』についてお話してみようと思います。
その前にまず、『カテコールアミン』のお話から。カテコールアミンは主に脳,副腎髄質および交感神経に存在する生体アミンの総称で生体内ではドーパミン(DA)、ノルアドレナリン(NA)、アドレナリン(A)の3種類が知られています。
『アドレナリン』は日本人が世界で初めて牛の副腎から結晶化に成功しました。時を同じくしてアメリカ人も同様の物質を発見して『エピネフリン』と名付けました。アドレナリンとエピネフリンは同じものを指していますが、歴史的背景もあってアメリカではエピネフリンが一般的になっています。
http://kusuri-jouhou.com/yakubutu/adrenalin.html
他に合成カテコールアミンとしてドブタミン、イソプロテレノールがあります。
(バソプレシンやホスホジエステラーゼ阻害剤などは昇圧剤ですが、カテコールアミンではありません)
次に、これらカテコールアミン製剤がどの受容体(α、β)を活性化するのか、またそれぞれの受容体はどこに体のどこに分布してどのような働きを担っているのかを理解しておく必要がありますね。
下表は受容体とそれぞれの作用を示したものです。(週刊医学界新聞:レジデントのためのクリティカルケア入門セミナー/大野博司先生 から引用です)
次にどの受容体を活性化するのかみてみましょう。
ドーパミンは低用量でドーパミン受容体刺激、中等量でβ受容体刺激になり、実はα作用を期待するためには10γ以上必要になります。
α作用の強さではノルアドレナリン>アドレナリン>ドパミン>ドブタミン>イソプロテレノール
β作用では逆になって、イソプロテレノール>ドブタミン>ドパミン>アドレナリン>ノルエピネフリンです
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さて、次にショック時の昇圧剤に関してですが『ドーパミン』がいいのか『ノルアドレナリン』がいいのかという事についてお話していきます。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0907118
2010年の3月にNEJMに掲載されたものです。いろいろと議論する際のたたき台としてはいいかもしれません。多施設大規模試験(8施設)ですが、ショックの患者さん(18歳以上、種類を問わず)にドーパミンを投与した群とノルアドレナリンを投与した群をコンピュータで無作為に分けて28日後の死亡率を比較することをprimary outcomeにしています。基礎疾患などのbaselineに差は認めず、グループ間で死亡率に差はなかったという結果(ドーパミン52.5%に対してノルアド48.5%でドーパミン使用群のオッズ比は1.17;95%信頼区間0.97~1.42;P=0.10で有意差を認めなかった)に終わっています。また、ドーパミン使用群では不整脈イベントが多かったようです。サブグループ解析において心原性ショックの患者さんではドーパミンはノルアドレナリン使用群に比して28日死亡率が優位に高く(P=0.03)他の病態によるショックでは有意差は認めなかったという結論になりました。
・・・興味深いですね。これは急性心不全のほとんどのケースでは心臓のoutputが減少しているのではなくて、『fluid distributionの不均衡』が問題となっており、従来考えられていたよりも心臓自体のoututは重要でないことが分かってきているためだと思われています)
他の病態(敗血症性ショック)で有意差がでなかった理由としてまずpatientの選定でinclusion criteriaが広すぎる印象があります。ショックという死亡率の高い病態をきたしたすべての人を対象にしprimary outcomeを28日後の死亡率に設定しているので両群間で差はでにくいのかなと思います。ショックという死亡率の高い疾患群を対象にしているので、SepsisであればEGDTはどこまで遵守されているのか、hypovolemic shockに対する輸血や止血術、大量補液などのアプローチ、心原性ショックであればPCIなどは施行されているのかなどこれらの処置がきちんと行われた上でのstudyであれば結果はわずかでも違ってくるのかなと思います。その点が不明確です。またドーパミン(20γ)で血圧上昇しない際にノルアドレナリンを追加投与していますので、重症例でははっきりと対比した違いがでにくいだろうと思います(軽症例では、そもそもそれほど大きな違いはでないでしょう)。そう考えると症例数として適切なのか、重症ショックというように限定すればどうかなど問題もできてきます
上のstudyにおけるサブグループ解析ではseptic shockは有意差なしとの事でしたが、次の論文はseptic shockにおけるドーパミンとノルアドレナリンを比較したmeta-analysisです。
http://www.hakeem-sy.com/main/files/Dopamine%20Meta-Analysis%202011_0.pdf
septic shockの患者群(2043人、大人限定)を対象にして行われた6つのランダム化試験のmeta-analysisです。(NEJMにおけるSeptic shockの患者さんは1044人でした)同じようにドパミン投与群とノルアドレナリン投与群を比較して28日後の死亡率に差がないかみたものです。結果はノルアドレナリンの死亡率が48%でドーパミンが53%でした。ノルアドレナリンの相対危険度は0.91で95%信頼区間0.83~0.99、P値0.028で有意差ありとの結果でした。同様にノルエピネフリン群では不整脈のイベントが少なかったようです。
・・・現時点で敗血症ショック時にはドーパミンよりもノルアドレナリンを第一選択にするという見解を支持する論文のひとつですね。ノルアドの方が強力なα作用を有し昇圧効果に優れるだけでなく、腎臓や内臓、脳、微小血管への血流を増加し心拍出量も上げる一方で心拍数はそれほど増加させないという特徴をもつことからも理解できます。また、輸入・輸出細動脈ともに拡張している敗血症性急性腎傷害に対しても腎血流を保つのでよいですね。
勿論、昇圧剤を使用するのは補液をしっかりしvolumeを補いそのうえで血圧が低い場合ですね(EGDT参照を)。そうでないと臓器の虚血が進んでしまいます。
また、こんなstudyもありますが、designがRCTでなくobservational studyなので・・・・です。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19114885
最後にノルアドレナリンの使い方の1例を紹介
ノルアド5A+生食45mlで1~5ml/時でスタート(0.05~0.3μg/kg/分)
本日は以上です。お役に立てれば幸甚です。
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