道具をガチャガチャ言わせながら家の玄関を開けたら
ドカン!
と言っても誇張でない音が立ってしまった。どうしたのー、と母が台所から声を掛けた。我家の玄関引戸は立て付けが悪いのだ。
私は走って帰ってきた勢いが止まらず自分の部屋に駆け上がる。お昼はー、と呑気な声がやっぱり台所から聞こえる。
「暑いからいらない!
疲れたから昼寝する!」
私は自分の部屋の扉を閉めて眩しいからカーテンも閉めて、矢筒と道具袋を床に放り出して、
ベッドに伏せこんだ。タオルケットで頭をしっかりとガードしながら。
どうかおばあちゃんなんが突然入って来ませんように。
息が苦しかった。力一杯走ってきだけじゃない。肺が押し潰された見たいに息がくるしかった。
私はタオルケットで護った頭を敷き布団に押し付けて、ぜえぜえ言いながら、耐えていた。
中途半端に暗い部屋の中は気楽な牢獄みたいだった。
柔らかいのに、脱け出せない。
体が冷えていった。
私の心臓の裏側には誰にも見えない切傷があって、
ようやく薄皮が張ったそこから、今たらたらと血が流れ出していた。
それでいい。
それでいい。私はそれを確かめるために先生に会いに行った、そのためにここに帰ってきた。
自分がまだちゃんと血を流せるかどうか確めに来たのだ。
私の体の一番奥の白くて冷たい空洞の中を、赤くてきらきらした血液がとろとろとろとろ流れ出して満たしていく。
私は耐えた。
出血の傷みに耐えていた。そしてほっとしていた。大丈夫、大丈夫、私の感覚は生きている。私はまだちゃんと傷みを感じる事が出来る。
私は先生との三年間と、進学してからの半年と、さっきの二時間を想う。
何も変わらなかった。
私は何も変わらず、辛いことは何にも変わらなかったのだった。
「などか射る。な、射そ。な、射そ。」
私はまた呟いた。
どうして射ることがある、
もう射るな、もう射るな!
もうこんなに報われない思いはしたくない。体の中が冷えていく。
私は体の中を満たした光って冷たい血液のなかをいつまでもたゆたいながら、強く、強く、決意を固めた。
東尾先輩のことを考えるのはもう止めよう。