「梶?何してるの?」
「裏山で涼んでるよ。
この時間は部屋にいられないからね。坂本さんはどうしたの?」
「なんだか揃いもそろって報われない思いしてるのがバカらしくなったから梶に電話したのよ。」
「大広くんは報われてると思うけどなあ。」
「あんなバカのことはいいのよ。」
「坂本さんは大広くんに厳しいから」
「厳しいわよ。
みんな知ってると思うけどこのわたしが、」
「そのあなたが、」
「こんなに好きなのになお報われないなんて。」
「はは。いつもながら憤慨してるね。」
「余裕こいてるけど、実は梶が一番報われてないの知ってるんだからね。」
「そうだね。報われてないね。」
「嫌じゃないの?」
「嫌ではないよ。報われようなんて考えないからね。報われない方が当たり前だからね。」
「ねえ梶ってしあわせ?」
「ちがうよ。」
「しあわせになりたい?」
「興味ないな。」
「じゃあ不幸なの?」
「興味が無いから不幸でもないよ。」
「梶は何に興味があるの?」
「自分かな。
自分が考えている事だけに興味がある。だから僕は自分が報われなくても構わない。
思考していることによって僕の願いは叶ってるからね。」
「その中に人を入れるのが嫌ってこと?」
「まあそういうこと。」
「梶って砂肝好き?」
「好きだよ。」
「じゃあ夜焼鳥買っていくわ。一緒に食べようよ。」
「ありがとう。一食浮くよ。」
「うん。」