長編お話「東尾言語」の40 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

学食でみかちゃんとお昼を食べたあと、そのままノートを出して次の英語の予習を二人でやった。
「今日28日だから私三文めが当たっちゃうのよ。」
とみかちゃんは言う。英語の先生はその日の日付けで席番号の人を選び、英文和訳を作らせる。
ごっちゃんは今日当たらなくていいなあ
と言われながらだけど、私は彼女にお付きあいして英語を訳していた。
みかちゃんは辞書を持っていたんだけど、私の使っている電子辞書の方が
「便利。」
と言うので二人で交代ごうたいに使いながら私たちは知らない単語の意味を調べた。
「大学入試であんなに英語勉強したのにまだ勉強しなきゃいけないなんて、もういや。」
とみかちゃんは言った。
「いえいえみかちゃん、大学はそもそも勉強する所ですから。」
私が言ったら彼女は
「何言ってるのごっちゃん、大学になんてみんな遊びに来てるに決まってるじゃない」
とあっという間に否定した。そして、飲み物買いに行かない? と言う。
私たちは鞄からお財布を出して学食の隅にある紙コップの自販機に向かった。
「そう言えばごっちゃんってどうしてサークル入らなかったの?」
メロンソーダが入るのをまちながらみかちゃんが私に訊く。
「うーん、なんだかね。入りそびれちゃったの。
入学式済んで直ぐじゃないと入りにくくない?」
それもそうね。とみかちゃんがメロンソーダのカップを取り出す。
変わって私は機械にお金を入れると牛乳屋さんのミルクコーヒー、のボタンを押した。
「ピラ研入らない?」
「入って何かするよりみかちゃんの話聞いてる方が絶対面白い。」
「それもそうね。」
私たちはテーブルに戻らず立ったまま飲んだ。もう一度紙コップを捨てに動く面倒を省くため。
「うちの大学ってへんなサークルばっかりだよね。クリオネ研とかサバイバル部とか。」
「サバ部って夏休みにどっかの無人島で自給自足合宿したらしいよ。」
「ほんと?」
「うん。ピラ研の子にサバ部の友だちがいて、聞いた。」
「無人島って勝手に入っていいの?」
「無人島っていってもなんか池の中にある無人島らしくて、公園になってるみたい。」
「それってサバイバルなのかなあ。」
みかちゃんが笑った。
「私は本当だったら何か音楽のサークルに入りたかったの。」
私は話す。
「へー、なんか楽器出きるの?」
「全然。だから何か変わった楽器にトライしてみたかった。
ハンドベルとかグラスハープとか。」
「マトリョミンって知ってる?」
みかちゃんがへんな言葉を話すので私は聞き返してしまう。
「マトリョーシカから電波が出ててそこに手を近づけたり離したりして音楽を奏でるらしいよ。」
「みかちゃんってほんとに変なことばっかり知ってるよね。」
うん、変なこと大好き! と彼女笑ったのだが、そのあと、せっかく黒俣山に登ったのに肝心の石の祭礼設備がなんにも無くて腹立った、と今度は怒り出した。
でもその時(恐らく)上級生の男子が二人飲み物を買いに来たので私はみかちゃんを引っ張ってそこを離れる。
「東尾言語のことって知ってる?」
「いや知らねえけど。」
「あいつ学校辞めるらしいぞ。」
「へー。」
身の入っていない会話するが聞こえてきた。