長編お話「東尾言語」の44 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

私は大学構内を隅から隅まで歩き回って、暇さえあれば街中を歩き回っていた。
学生がよくバイトしていそうな居酒屋にもみかちゃんに頼んで一緒にいってもらった。
一月の間に私はみかちゃんから相当な酒飲みだと思われるようになってしまった。
そのくらい、私は色んな店に足を運んだ。

私は兎に角歩き回った。多分そのせいで11月になる頃には四キロも痩せていた。
いいなー
ごっちゃんやせたらかわいくなったね。
とみかちゃんに言われたのだった。だったら今まではどう思っていたの、と、ちょっと腹立ったんだけど、言わなかった。

私はこの秋を、ただ歩いて歩いて、歩いていた。
どんなときも一人で歩いていた。私は一人だった。歩きながら私は一人なんだと強く思っていた。

こんなに沢山の人が歩いているのに。
私が話をしたい人が何処にも居ない。私が会いたいと思っているひとが何処にも居ない。私は誰とも繋がらない。誰も私の事を気付かない。
ああ一人ってこんな感じなんだな、と私は何か新しい研修を受けている気持ちで、そろそろ寒くなる街を歩いていた。
一人ってこんな感じなんだ。

ソウデスヒトリハコンナカンジデス。ヨクオボテエオキマショウ。

と誰かが噛んで含めて教えてくれるよう。私は一人で歩いて一人でアパートまで帰った。

帰ったら、多分肉体を酷使しているせいだと思うんだけど、唐突に玄関で倒れて動けなくなってしまった。
「うー…。」
足が痛い。血豆も沢山できた。踵もすりへっちゃった。足の裏が痛い。肩も腰も痛い。何もかも痛い。床も冷たい。
そんなこんなで気持ちが負けてしまったんだと思う。
床に踞ったまま私は涙が出てきた。
えーん
と声に出したら尚のことざばざば涙が溢れてきた。
発見だ。哀しいとき、嘘泣きしたらほんとに泣ける。
えーんえーん
と言って私は床の上で泣いていた。泣いていると心の中のコンクリート舗装が溶けていくみたいで、今まではどうにかこうにか自分で立ってたそれががらがら崩れていくのだった。

携帯のコール音が鳴ってみかちゃんの名前が表示される。
「…。みかちゃーん。」
鼻声で私が出るものだからみかちゃんは驚いた。
ごっちゃん、どうしたの、ないてるの? なんで?なんかあったの? 私行こうか?
通話の向うでみかちゃんがそう言う。
「みかちゃん、東尾先輩が居ない。」
「東尾先輩ってだれ?」
「東尾先輩が何処にも居ない。」
まってまってごっちゃん、ちゃんと教えて?
とみかちゃんが言う。
私は更に更に泣いてしまった。

東尾先輩が居ない。