小説「花。」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

見ただけで解る。筆をきれいに洗わないからだということもあるけど、私の絵は、汚ない。汚ない絵に銀色の折り紙が張り付けてある。銀賞、と言う意味である。

春に学内で絵画コンクールがあって、一年生から六年生までそれぞれのテーマに沿って絵を描く。

私達は校庭から見える山の景色を描いた。その私の絵が銀賞に選ばれた。我ながら、色が汚ないなあと思う。
色が汚ないのに何故銀賞をもらっているのか。それは私よりきれいに描いている奴が少なかったからである。

私よりきれいに描いている人は金色の折り紙をもらっている。
金色の折り紙の上に赤いバラの折り紙がついてる人が、最優秀賞である。
私は自分の汚ない絵を見ている。

自分より下手な人が多いからもらった賞と言うのは複雑だなあ、と思う。何故私より下手な人が多いのか、みんな真面目に描かないから。

山なんて書いてもつまんねえよな。

と言うことでみんな真面目に描かない。適当に輪郭を書いて適当に色を塗っている。
明らかな手ぬきが分かる奴は先生に怒られている。(それ以外には本気で絵が描けない奴というのがいる。)

私は最優秀賞になった絵を見ている。同じ場所から同じものを見て描いた絵なのにどうしてこんなに違うんだろう、と思う。光が宿っているのだ、紙の上に。

花が散りばめられているみたいに。緑の山を描いているのに。

絵を描くのはそれを見ている人だ。見えるものが絵に成るものだ、
私の山はこんな風になんとなく茶ばんで汚く見えているんだろう。

では何故この人の山はこんなに光に溢れて花ばなとしているんだろうか。この風景のどこにこんな明るさを見つけ出したら良いのだろうか。解らない。これを描いた人じゃないから解らない。

その、最優秀賞になった絵を見ていて私は人間とは平等ではないと理解したんである、小学四年生の時に。

花だって咲く奴の所にしか咲かない。