小説「空港」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

空港にはろくな思い出がない。

アメリカに旅行に言ったとき、飛行機が着いた後入国審査のカウンターが何故かシステムダウンを起こしていて、
理由を聞いてもそもそも言葉が通じないしそうでなくても向こうの連中は
「NOproblem、hahaha!!」
しか言えないような国民性だから、私はいらいらしながら二時間手持無沙汰で待つより他にすることが無かったんである。

他にもタイに行ったら私の荷物だけ全然違うレーンに運ばれていて異国で身一つにされて途方にくれたり、
スペインに行ったときは
訳も分からずに空港の職員に呼ばれて無理矢理トランクの中身を調べられて怖い思いをした。
ヨーロッパではカラードへの偏見がまだまだ根強い。

そんな嫌な思い出があるのに、私はよく飛行場に来る。レストランでコーヒーを飲みながら発着する飛行機を見るんである。
ぼーっとしながら。滑走路を歩いていく飛行機を順順に、見ていく。空港のレストランのコーヒーが好きだからと言うこともある。

あの人が立った時を思い出したいからだ。
「別れることになるかもしれない。」
とあの人は切り出した。

プランツハンター、と言って世界中のいろんな地域に出掛けていっては希少な植物を探す仕事があるのだそうだ。
「それがやりたいんだ。」
だから海外に行きっぱなしになる。だから別れることになるかもしれない。

いいよ。と私は言った。
止める理由を思い付けなかったからだ。良くわからない仕事だとは思った。そんなことでやっていけるのだろうか、と疑問に感じたけど、

感じたからこそ、止めるのは無理だなと思ったのだ。
だから、いいよ、行ってらっしゃいと言った。

それ以来何処で何をしているのか。その人には会わない。

だから私は時々空港にくる。自分が空港を使う事はもう無いけれど、それでも空港に来る。
本当に何処で何をしているんだろう。あの別れの時に、あの人は飛行機で何処かに行ってしまったわけでは無かったけど。私たちは、只、別れた。

あの人が別れたがっていると思ったからだ。
だからこそ、止めても無駄だと私は思ったのだ。

こんな、空港で待っていても、全く意味なんて無いのだ。あの人が何処かに行ってしまったわけでは無いのだから。私が勝手に離れてしまったのだから。

私はそれをちゃんと分かっている。