長編小説「光じゃない」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

鳥を持った女、が、題だった。鳥なら解る。羽を広げているから。
いや、鳥ではないかもしれない。羽を持っていれば鳥だと言う私の単純な認知、それがこの物に鳥を印象するのだ、それだけのことかもしれない。
とにかく鳥だと言うことは解る。が、それ以外のことはちっとも。
まったく解らないのだ。何がなんだか。羽を広げている。だから何なんだ。
それ、はほとんど使われない南講堂のエントランスに置いてある。立っているといってもいいかもしれない。
形状を、伝えることはむずかしい。伝えることはなんだってむずかしいけど。
例えば貴方が目の見えない人。私は晴眼だ、なんて言わないでください。例えばなしだ。
例えば貴方が目が見えなくて。私とこれの前に立っている。
貴方は、困惑している。いつまでも困惑している。分けが解らなくて困惑している。だって私だって説明がつかないんだもの、分からないんだもの。
塔だ。それしか解らない。長い円錐形。そう言えば少し解るかもしれない。
とにかく3メートルくらいの円錐形。塔みたいなもの。
それが、無惨にもナイフであちこちえぐりとられて、食べ散らかされたクリスマスの骨付き肉みたいになっている。
解らない。そんな風にしか言えないのだ。盛大に自分を散らかし回しながら、それは天を目指して伸びている。天かなんか知らないよ。知らない事でも好きなようにしゃべっていい。SNSがあるじゃないか。
そして円錐形を包み込むように、羽がそのリアルを夢眸の辺りに生きている。
私はこれが好きなんだ。
忘れさられた校舎に立っているこの彫刻が好きなんだ。
意味はいい。訳もいい、ただ、好きだから、見に来る。
そして円錐形の足元には、製作者のネームプレートが写真つきで置かれている。
汚い女がにやけている。
だいなしだ。