小説「光じゃない」4 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

結果を先に言うと、私はヒラキを養うことになった。
「俺もいよいよ家畜か」
とヒラキは言った。まんざらでもない様子で。
大学の裏手に広い田んぼを扱って、毎日トラクターに乗っているおじいさんがいる。
農家としては有能だけど、でも、ちょっとだめだ。
だめなのをいいことに私はそのおじいさんから米を盗んでいる。おじいさんの納屋は田んぼの果ての畦道の途中にあって、ボロくてぎしぎしだ。
ぎしごしいうが、鍵は付いてない。私は夕方おじいさんがトラクターをがこんがこん言わせながら農道を進むのを確認して、納屋に入る。
トタンの引戸がごりごり鳴る。構うもんか。奥に、米袋がたくさん積み上げてあるから、私はお目当ての1つの口をあけ、ボウルを突っ込んでごみ袋の中にじゃんじゃん米を移す。そうしてサンタクロースみたいにして担いで帰るのだ。
「何が食べたい?」
とヒラキに聞いたとき、
「…肉じゃないもんだな」
と言った。
だから私はおじいさんから盗んだ米とコンビニで売っている冷凍グリーンピースで豆ご飯をつくり、おにぎりにしてヒラキのところに持っていってやる。
冷えたおにぎりにかじりつくヒラキの隣で、私は屋台で買ったヤゲンナンコツ相手に日本酒をすする。
「うまいよ」
と私は隣のヒラキに言う。
「そりゃ良かった」
とヒラキはおにぎりを食べながら、
「まずくていいねえ」
なんて言う。
「まずいものは好き?」
私はヒラキに聞いてみた。
「当たり前だ」
と彼は答える。まずいものはいい。大人にならずに済む、と言う。私はヒラキがいくつなのか知らない。痩せて、小柄だ。確実に私より歳を取っている。
「本当はヒラメキって名前なんだ。ややこしいからヒラキなんだ」
彼について最初に知ったこと。自己申告された。