夕暮まで | 月曜日は最悪だとみんなは言うけれど
吉行淳之介「夕暮まで」
ネタバレ有りなので読みたくない人は読まなくていいです。
最近、吉行淳之介の自伝エッセイみたいなのが会社にあり、それをパラパラと読んでいたら、思いの外面白い人で、興味を持って初めて読んだ。
吉行淳之介といえば村上春樹のエッセイでキャバクラで偉そうにする文筆家として出てきたり、(といっても村上春樹は自分が選出する短編集で吉行淳之介の作品を挙げたりしているので嫌っているわけではないと思う)ホステスの尻の触り方について延々と語るという言わば、「昔のスケベ文豪家」としてのイメージが大きすぎる気がする。
自分もどちらかと言えば、いけすかない女たらしというイメージがあったけど、自伝を読んだら、なかなかどうして若いときは自分と似た考え方だというので親近感が沸いた。娼婦との関わりが全くない状態でエロ小説を妄想で書き始めたあたりは面白い。(その後吉行淳之介は娼婦に耽溺するので自分の将来はどうなることやら)
さて、夕暮までである。すごく平易な文章で書かれた小説である。佐々という40すぎの遊び慣れたおっさんが、23歳の杉子とエロ行為をするのが物語の軸なのだけれど、杉子は異常に「処女」にこだわるので、いつもその前までを楽しむ。オリーブオイルで素股をしたり、そういうペッティングをしながら、杉子は「処女を守る=幸せな女性としての将来」を保障しながら、また佐々に演技として自分を襲わせることで、形としての女性の尊厳みたいなものを保ちながら、快感にうずくまる。しかし、あるとき、杉子は佐々と関係を保ちながら、若い男と関係を持つ。(これは佐々が煮え切らない態度でのらりくらりとした結果、佐々と杉子との関係で閉塞感が生じており、それを打破するようにも見える)そしてその若い男に処女を捧げ、糸が切れたように自殺未遂。その後杉子は帰ってくる。どことなく感覚が変わった杉子。
最後の杉子が嘘をつくシーンと海岸を走るシーンは切ない。

たぶんこういった小説は、読むタイミングによって変わってくるんではなかろうか。たぶん若いときはスケベ小説としてしか読めない気もする。ただ自分はある程度年をとったので、若い女性が持つある種意味のない拘りや尊厳が生々しく描かれているように感じることが出来た。拘りとその反面それを破りたくなってしまう、反発しあう感情。実に文学的エロス。
とても面白いし、誰かに勧めるべき小説なようにも思えるのだけれど、実際こういった視野を持つことができる人間は現代社会には少ないように思える。恋愛が公開主義、個人主義になったせいもあり、倫理観に重きを置かなくなったような気がする。おかげで文学的エロスは失われた。谷崎も吉行もそしてわかりやすい村上ですら、ただのエロ小説に成り下がるのも時間の問題であり、それは悲しいことなのかもしれない。健全だけれど。