前編はこちら




 黒部峡谷、名剣温泉に宿泊。

 

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富山の山の幸、海の幸を堪能。

おもてなしも丁寧で、お料理も、大満足。


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キノコや山菜や川魚に、繊細な仕事をしているのがわかる。海の魚もあるが、日本海で採れたものを毎日トロッコ電車で運んでいるそうだ。


この僻地でこのクオリティを保っていることに賞賛と感謝しかない。


特に山菜の天ぷらは、個人的に感動ものだった。

採れたての山菜は、スーパーにあるお野菜とは比べものにならないぐらい香り豊かで食感も力強い。



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露天風呂は一度、旅館の外にでて向かう。

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日が出てる間は、このような絶景が露天風呂から望める。


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食後、露天風呂に入る。


すっかり夜になってしまって、景色は見えなくなってしまったが生い茂る木々、渓谷をながれる雄大な川の音が心地よい。


静かな時間だった。


長い間誰も来なかったので、露天風呂の岩場で瞑想をする。月は完全に隠れていたが、なんとなく位置が分かったのでエネルギーを感じながら瞑想をした。


満月とともに満ち溢れるイメージ。

森や滝の流れ、温泉のエネルギー、あらゆる繋がりの中に入り、自らのエネルギーを調和させる。


人の気配を感じたが、物音がしなかったので瞑想を続けた。


暫くして目を開けると、先ほどまで完全に隠れていた月が少しでていた。


薄雲の向こうにその形を捉えられるぐらい。



が、人もいた。


ふくよかで白くつるんとした女性が1人。

私を邪魔しないように、多分そっと入ってきて、そして、そっとしておいてくれたのだろう。


私は完全なる全裸で、岩の上で瞑想体勢。


あ、あ、あ。やってしまった。


完全に、変人。


「すいません、」と小さく漏らして、温泉に入る。




暫し、沈黙。




「気を送ってたんですか?」


「・・・えっ。」


「会話してましたよね」


ふくよかな女性はすんなりと声を発した。

柔らかくて、すっと入る声。

違和感はないが、あまりにも自然で、驚く。


「御月様と、木と」


「・・・すいません。共有の場で、」


「いえいえ。修行なさってたんですか?」


「はい。一応。」


「そうなんですね。今日一緒に来た友達は、ヨガとか全く興味がないから」


「そうなんですね」


「初めてみました。月にエネルギーを送ってる人。みんな満月のエネルギーをもらうようにしてますけど・・・。エネルギー送ってましたよね。」


「あ、そうですね。送ってるというのもありますし、もらってもいて、なんというか、私は、調和、しようとしていて、月やこの山々や自然と同じように充ち満ちるイメージなんです。だから、私が充ち満ちると、山々も、呼応してくれるのかな、と、思います。繋がるというか、」


「そういうやり方があるんですね」


「私は、そうですね。いろいろ、やり方あるとおもうんですけど、私にはこれが合ってて。」


「山が光ってるの、初めてみました。そんなこと、できるんですね」


「ああ。青白く光ってますね」


先程は真っ暗だった山々は、青白く光っているように見える。満月が薄雲の向こうに見えて、空が少し明るい。完全に姿を現してはいないが、ぼやっとひかり、丸い輪がかかっている。



「不思議な月」 



そう女性が呟いて、ぼやっと2人で月を眺めた。


「こういう満月も、初めてです。リングのかかった、環のついた月って、なかなかみないですね」


こういった類の自然現象は良く起こる。

私の勘違いかもしれないのであまり気にしていなかったが、知らないひとが言うので、客観的に見てもそうなんだなぁ、と、思う。


でも光らせたのは私の力ではない。

月や、山々が元々持つ、自然の力。現象だ。


「私、一時期、そういう力があったことがあったんです。」


ふくよかなで柔らかい肌が、月に照らされてなのか、湯けむりのせいか青白く柔らかく光って見える。つややかで優しい声も、なんとなく、儚い。


「そうなんですね。」


「病気で死にかけたことがあって、そこから戻ってから、急に」


「死にかけたんですか?」


「はい。病気で。その時、黄泉の国というか、キリストの世界を見たんです。とっても綺麗な家だと思って近づいたら、それは、全部、人で。笑顔で手招いてくれて、それで、そこからキリストが現れたんです。なんとなくなんですけど、キリストと呼ばれてる人なんだって分かって。あれ、あたし、ブッダの方じゃないの?って自分でも思ったんですけど。(笑)あれは、キリスト様でした。なんとなくなんですけど、分かるというか、」


「うんうん。わかります」


「その後から、占いとか、急に絵を描いたりするようになって、自分でもよくわからないんですけど、カードの意味や使い方がわかったんです。本も読んでないのに、全部分かって」


「ふんふん」


「(ハートチャクラに手をかざしながら)その時の自分は、自分からとめどなく金色の光が出てるのがわかるぐらい、本当に、不思議な感じでした。でも、なんだか怖くて」


「怖かったんですか?」


「何が起きてるのかわからなくて、なんとなく、怖くなっちゃって。元に戻りたいって感じでいたんで、閉じてしまったのかな。もう、今は普通なんです。絵も占いも、全く。」


「何にも感じなくなっちゃったんですか?」


「いまは、もう無いですね、あの感覚は。本当に溢れて止まらなかったんです」


「なるほど・・・当時は完全にそちらの世界と繋がってたんですね。でも、その力は消えたり無くなったりしたわけではないと思いますよ」



お互い初めましてとは思えない穏やかな雰囲気だった。違和感がない。お互いの考えていることが、お互いよくわかっていて、言葉はそれ以上もそれ以下も必要なかった。


必要以上に語らない。

必要以上に踏み込まない。


でも、たいせつな感覚は共有していたと思う。

だから、同調しても、興奮はしない。


穏やかな、同調だった。

過不足なく満たされていて、居心地がいい。  

居てもいいし、居なくてもいい。




月がとてつもなく光り始めた。

雲は濃い。 

しかし、月だけはクレーターが確認できるほど光っている。最初は完全に隠れて姿すら見えなかった月が、今は完全に確認できる。


昼間は夏日のような快晴だったが、夜の天気予報は雨だった。さらに言うと明日からは2日連続で一日中雨の予報。雨が降るのは確実だった。濃い雨雲が空を覆いながらも、月だけがそこから、眩い光を放ちながら姿を現しているのは、稚拙な表現だが、神秘的だった。


「我々がしつこく待ってるから、出て来てくれたみたいですねえ」


女性が、にこりとする。


「ですね」


「いつまでも眺めていられますよね」



暫く月を眺めて、2人で話し込んだ。

温泉には誰も入って来なかった。


話に夢中になって月を眺めるのをやめると、外は完全な闇になった。

月は厚い雲に隠れて、位置もわからない。

森の輪郭も全く見えない。完全な闇。




異様な暗さだった。





「こんな話、普通できないから、良かった。友達や家族に話したら精神病院に連れていかれてしまいます。私の周りには、あなたのような人はいないから、」


ふくよかで柔らかな女性は、少し悲しそうな顔して「あのとき怖がらなくても良かったのかな」と呟いた。






つづく


後編は明日12:00更新

(後編は祖母谷温泉の帰り道で体験した不思議な話)


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