雅紀以外の人とするのは初めてだった。
ただ、触れるだけの優しいキスだったけれど…
〔ごめん…ズルイよな…〕
先輩に謝らせてしまった私。
こんなはずじゃなかった。
「あ…あの…私も…ごめんなさい…」
その場にいられなくて、つい私は…
「か、帰ります」
ガチャ…
バンっ!!
車から降り、勢い良くドアを閉め、自宅へと向かって走ったの。
最低…
こんな自分なんか大嫌い。
玄関のドアを開けると、そのまま自分の部屋へドタバタと階段を上った。
帰って来たの?ご飯は?って…珍しく私より先に帰って来ていたママが言ってくれたけど…
「いらない」
そう告げて自室に閉じこもる。
「っ…グスン…」
こんなはずじゃなかった。
もっとこう…
恋って…
楽しくて嬉しくて…
甘酸っぱくて…
両想いって…そういうことだって思ってた。
全然違うじゃん…
なんなら…片想いよりも全然苦しくて…
自分の弱さを思い知らされる。
雅紀…
私…
先輩とキスしちゃったよ…
こんな私…もう好きじゃない…?
嫌われちゃうかな…
「グスン…ひっく…」
前みたいに、何でもない会話で笑いたい。
バカみたいに何度も超好きって言ってもらいたい。
手を繋いで放課後はデートして…
私の部屋に入るなり急に抱き着いてきて…
ダメって言うのに雅紀の手は止まらなくて…
そういうイチャイチャも…
全部無くなったら…
嫌だよ…グスン
♪~♪~♪~♪
♪~♪~♪~♪
♪~♪~♪~♪
気が付くと、バックの中の携帯が鳴っていた。
今は泣きすぎて声もおかしいから…電話になんか出たくない。
♪~♪~♪~♪
♪~♪~♪~♪
誰とも話したくないのに…
♪~♪~♪~♪
♪~♪~♪~♪
♪~♪~♪~♪
鳴りやまない着信音に…一体誰…?って思って…
画面を見ると…
知らない番号。
嫌な予感がした。
「はい…」
[あ、もしもし?やだ、なんか酷い声。大丈夫?キャハハ]
「どちら様ですか?」
[あ、ごめんごめん、私♪すみれ♪]
「はっ?」
このタイミングで何故すみれ先輩が私に電話を?
[ねぇねぇ、なんかね、すみれ面白いもの見ちゃって♪]
「あの…ごめんなさい…今は先輩の話しにお付き合い出来る気分じゃなくて…」
[へぇ~そうなんだぁ。何で?何かあったの?]
「…」
[拓海先輩とチューしちゃったから?くす(笑)]
「えっ…」
何で…?
サーっと血の気が引いていくのがわかる。
全身に鳥肌が立った。
[そっか、そういうことかぁ~なんてね♪拓海先輩やるぅ♪あ、別にすみれが仕組んだわけじゃないからね?すみれ、拓海先輩に嫌われてるみたいだし。
偶然、たまたま見ちゃっただけだから~♪]
「あの…何が言いたいんですか?」
[ん?言いたいこと?そんなの決まってるじゃん?
雅紀ととっとと別れなさいよ!他の男とそういうことしておいていいわけないよね?]
「…」
[このことは雅紀も知ってるから。さっき写メ送ったし。じゃあ、そういうことで。]
プーッ…プーッ…プーッ…
一方的に切られた電話。
雅紀に写メって…
はぁ…
消えてなくなりたいよ…