「何で先生はあそこにいたんですか…?」
静まり返った車内。
でもこのまま黙っていられるわけもなく…堪らず聞いてしまったの。
『ちょっと野暮用です。フフ』
野暮用って…
「先生は…何か知ってるんですか?」
彼女が一緒に車に乗っていることを半分忘れてしまった私。
『何かって?何を?』
「何をって…」
そして再びの沈黙。
沈黙がどれくらい続いただろうか?
長い長い沈黙。
ズルイ。
肝心なとこをごまかして…いや、この場合は彼女が車に同乗しているからなのかもしれないけれど。
でももし、今二人きりでもはっきりとした答えなんてくれない気がするの。
「相葉があんなところにいた理由…
先生があそこにいた理由…
単に私を心配して迎えに来たわけじゃないでしょう…?」
思わず言ってしまった。
だって真実を知りたいから。
「相葉のバカっ…」
悔しい…悔しいよ…
すみれ先輩がもし…何らかの理由でまた相葉に近付いていたなら…私には何ができる…?
先生がもし…何かを知っているなら…
先生と私が協力し合えば、相葉とこの子を救えない?
そんなの甘い考え…?
でもやってみなきゃわからないじゃない…
どうにも言い表せない感情が心を掻き乱す。
さっきからずっと拳を握り締めている私に…
先生はその私の拳の上にそっと手を重ねたんだ。
『少し落ち着きなさいよ…』
って…
そうこうしているうちに彼女の家に到着した車。
‘ありがとうございました…カナちゃんまたね。’
「うん…」
私が小さく手を振ると車は発進した。
「…」
二人きりの車内。
言いたいことは山ほどある。
『海、楽しかった?フフ』
そんな風に平気で笑ってみせる先生。
『ナンパされたんだって?』
「…」
そんな話、今はどうでもいい。
「私は…彼氏に嘘とか秘密とか…そういうの無しっていうか…先生には私の全部を知って欲しいし…だから…先生が思っていることとか…知っていることとか全部…全部ちゃんと知りたいって思うのに…」
何をどう言えばいいのかわからない。
こんな時、途端に日本語が下手になる。
隠し事をされるのは嫌。
先生が大好きだから全部知りたい。
あの子たちのこと、先生が何か知っているのなら…教えて欲しい。
先生があそこにいた理由。
先生がわざわざ来るくらいだもん、たぶん…
いや、絶対に私が理由なんでしょう?
私も関係していることが理由。
すみれ先輩と相葉…
私と先生…
「私と先生のこと…もしかして…相葉は知ってるの…?」
『…』
「相葉…何で先輩と一緒にいるんだろうって考えてたの。」
『…』
「だっていくら言い寄られたからって、すみれ先輩がしつこいからって、別に言いなりになる必要なんてないよね?
はっきりと断って、もう関わらなければいい話じゃん?
でも、相葉は先輩と一緒にいる。あの子に嘘をついてまで…何で?何でそうしなきゃなんないの?
どうしてもそうしなきゃならない理由があるってこと…?」
『カナ?ちょっと落ち着きなさいよ?』
「落ち着いてなんかいられないよ!だって、すみれ先輩も私たちのこと知ってるんでしょう?だから、それをネタに相葉に…それだったら全部辻褄が合うの。
相葉は…アイツあんなんだけど、本当はすごいいいヤツだから…
ずっと前から…実は相葉は私たちの関係に気付いてるんじゃないかって…何となく感じてたんだもん…」
そう、感じてた。
あの時から。
視聴覚室に行く階段の下で…相葉に呼び止められたあの時から。
何でって?そんなの何の根拠もないけど…相葉に直接何かを言われたわけではないけど…ただ…何となく…
「そんなの全然相葉に関係ないのに?だって!だって!何か言いたいことがあるなら私たちに直接言いに来ればいいじゃん!何でわざわざ相葉?」
私たちのことが学校にバレたらそりゃ一大事だし…そんな風にはなりたくないけど…
「最低…グスン」
一体私はどうすれば…