2006年のクライマックスシリーズ

札幌ドームで行われた、第二ステージの最終戦

0-0で迎えた最終回2アウト

稲葉さんが放ったセンターへ抜けようかという打球、二塁手は止めるのがやっとの内野安打になり、

二塁走者の森本稀哲がサヨナラのホームを踏んだ



北海道移転三年目でつかんだパリーグ制覇だった



サヨナラ勝ちの歓喜の輪の中に飛び込もうとグランドに駆け出した僕の目に何より焼き付いたのは

ソフトバンクホークスのエース斉藤和巳がマウンドに泣き崩れる姿だった

その姿を見て、正直、ぞっとした・・・



当時の僕は、序盤戦で先発を・・・要はクビになり、中継ぎへの配置転換をして、新たなポジションに挑戦中


クライマックスシリーズ直前の紅白戦での好投を認められ、クライマックスシリーズへの帯同をヒルマン監督に言い渡されたことで、ベンチ入りしていた



その男の姿を見て

「世の中に、たった一試合に、こんなに思いをぶつけられる投手が存在するんだ・・・」という事実に・・・ぞっとした

そんな輩には、僕に到底勝ち目はない


同級生のピッチャー、しかし本当に近寄りがたいオーラを放っていた彼

翌年の2007年を最後に、グラウンドでその姿を見る事はなくなってしまった




故障を美談にするのは僕は好きではない

自分自身、肘の手術を経験して


実力不足が故障をまねいてしまった事を痛感しているからだ



ただ、彼の場合

チームを背負う思いが強すぎるが故のことのように思えてならない




時は流れ、かつて球界の大エースと呼ばれた男と、僕はチームメイトになった


36歳という年齢は、いわゆるベテランで、ちょっと走れたりすると、「若い!」だとか、「身体つよいっすね~!」だとか

ほめてもらえる、おいしい年頃だ


僕もその口なのだが・・・


キャンプで見た、斉藤和巳の走る姿はそんな次元じゃなかった


驚愕のパワーと瞬発力。なんというか・・・あんなにでかくて、あんなにスピードとパワーを兼ね備えたやつ見た事ない



そして一つ一つのメニューを誰よりも丁寧にこなす。試合に出ないから・・・と言ってしまえばそれまでだが・・・与えられたメニューをしっかりこなす、本当にしっかり。


なかなか出来る事ではないんだ


同じく新入団の五十嵐と、「そんなに長く復帰をまつ」理由がわかると語った



先日、和巳と二人で焼き鳥を食べながら話した時の事だ


僕は、「今ファームでこんなに調子がいいし、結果も出ている。でも,もし次一軍に呼ばれた時、一軍で抑える事ができなかったらどうしようと、なんというか・・・怖いんだ・・・。こんなに状態が良く、それでも上で結果が出なかったら、それの意味する事は・・・」と話した


彼は笑顔で

「うらやましいよ!その感覚!懐かしいもんなぁ~。失敗が怖いなんて・・・」

と、僕を諭した



その言葉にはっとした

打たれるのが怖いなんて、なんて幸せな事なんだ・・・


怖かったんだ・・・僕なんかより何倍も


先発直前は、相手のチャートを持ちトイレにこもるんだという

誰にも話しかけられたくもなかったんだという



これからも何度も失敗が怖くなるたびに、この事を、和巳の事を思い出すだろう

これから何度も助けられていくだろう


そんな財産をわけてくれた、和巳のために、まだまだ頑張りたいと思う


ありがとう!斉藤和巳!おつかれさま!