昨日、衆議院第二議員会館で行われた「TPPアトランタ
閣僚会合報告会」に行って来ましたので、ご報告させて
いただきます。

〇どこまで合意したのか、さっぱりわからない

閣僚が揃っての記者会見でも、USTRのフロマンは
「アジア太平洋地域に高いスタンダードと バランスの取れた
成長をもたらす」など抽象的な美辞麗句を並べて見せたのみで、
なんら具体的な内容についての言及はなかった。

また、新聞記者が、この合意はどうとらえたらいいのか、
大筋合意? 基本合意? と尋ねても、フロマンは何も
答えなかった。

条文がちゃんとできているかどうかもわからない。

(日本政府は、条文はごく一部を除いては固まっている、
と国会議員に対して説明しているが、それを信用してよいか
どうかに疑問を持つ関係者も多い)

最終合意にはまだまだ遠い状態と推測できる。

〇アトランタでの日本の役割

日本は既に切るべき切り札は尽きており、アトランタ会合
では行司役に徹していた模様。

〇なぜそんなに日本は急いだのか

前 回の閣僚会合からまだあまり時間が経っておらず、
準備が整わないのに、無理やり会合を開こうと主張した
のは日本。

日本は秋に臨時国会を開き、TPP関連予算(TPPに
よる農業への打撃を抑えるためのバラマキ予算)を確保
することで、来年夏の参院選への悪影響を緩和したかった
とみられる。

他国からは「日本の都合に合わせてやっているのだから、
日本が譲歩して当然」という見方もあった模様。

〇 ISD条項による濫訴を防止する規定が入った?

TPP では、企業が国家を訴える権利を保障する「ISD
条項」というものがあり、これによって企業が理不尽な
訴えを起こし、国家の主権を制限することが懸念されている。
しかし、それを防止するための規定が設けられた、と政府
は説明する。

しかし、弁護士の視点でその内容を検証すると、問題点
は依然残されたままであり、何ら根本的解決になっていない
という。

〇 「原産地規則」はどうなったのか

TPP域内産の部品を何%以上使えば、関税0の恩恵が
受けられるか、というのが原産地規則。前回のハワイ会合
では、40%台を主張する日本と、62.5% と主張するメキシコと
が激突。

今回はアメリカ、カナダ、メキシコがグルになっていたと
見られ、日本は抵抗するすべなく55%で決着。

これによって日本はアメリカ製の部品の輸入を増やすことに
なると見られ、アメリカに有利な決着となった。

〇 日本の最大の「攻め」の分野、自動車はどうなったのか

アメリカが日本の乗用車を輸入する際の関税は、現在わずか
2.5%だが、そのたったの2.5% を廃止するまでに25年かける。
しかも関税削減が始まるのは15年目から。
最初の14年間は、今までどおり関税据え置き。

〇 関税削減の早さ、日米で大きな差異

上記自動車の件でわかるように、日本が関税削減の恩恵を
受けられるようになるのが、ずっと先のことであるのに対し、
アメリカの方にはすぐに効果が現れるようになっている。
例えば、豚肉の関税は10年までに撤廃。セーフガードも
11年目まで、など。

〇バイオ医薬品はどうなったのか

もっとも対立の激しかったバイオ医薬品のデータ保護期間
では、アメリカとオーストラリアの間で玉虫色の決着。
保護期間を基本的に8年とするか、もしくは保護期間を5年とし、
それにTPPの枠組みの下で一定の規制を設けることができる3年
を加え8年とすることで合意したもよう。

5年を主張するオーストラリアと、できるだけ長くしたい
(もともとは12年を主張していた)アメリカとが、いずれ
も国内向けに都合のいい説明ができるような制度にしたと
みられている。

〇 チリとペルー粘り勝ち

同 じくバイオ医薬品のデータ保護期間で5年を主張して
いたチリとペルーは粘りに粘って、データ保護期間を変更
するまでの10年の猶予期間と3年の法制準備期間(実質
13年の猶予期間ということ)を勝ち取った。

ほとんど完勝といっていいくらい。

〇 そこまでフロマンが譲った理由①

今 回、フロマンは強引に交渉をまとめようとしていた。
理由のひとつは、どうしても「大筋合意」という名目がほしい
日本に配慮したためか。

〇 そこまでフロマンが譲った理由②

内 容はどうあれ、TPPの枠組みだけは固めたかった
のではないか。オバマはTPP大筋合意を受けて「中 国の
ような国に世界経済のルールを書かせることはできない。
我々がルールを書き、米国製品の新たな市場を開くべきだ」
と声明を発表。

中国がAIIBによって世界経済を牛耳ろうとしている
ことに対し、アメリカは強い警戒感を抱いており、それに
対抗する枠組みとしてTPPが有効だと見ていると思われる。

アトランタ会合のキックオフパーティーでも、USTRの
ウェンディ・カトラー次席代表は「グローバル経済時代の
貿易協定に、アメリカが関係しないvacume(真空状態)を
つくってはならない」と発言。これも中国に対する牽制。

〇日本のTPP推進も中国を意識?

日本政府は、中国の軍事的脅威に備えるためには、アメリカ
との同盟強化が必要であり、そのためにアメリカの望む
TPPを推進しなければ、と考えているのではないか。

日本にとっての経済的メリットがどこにあるのか、さっぱり
わからないのに、TPPを推進する理由はそのくらいしか
考えられない。

ではTPPに入れば、アメリカが中国の軍事的脅威から本当
に日本を守ってくれるのか……そんな不確かなものに、こんな
大きな経済的犠牲を払うのは「大枚はたいてタヌキの葉っぱ
を買ったようなものだ」(首藤信彦氏の言)。

安田注:しかし経団連があれだけ熱心にTPPを推進する
からには、日本の財界、大企業には必ずさまざまなメリット
があるものと思われます。それが何なのか、一般人にわかり
にくいだけで。

〇 カナダでは

カナダではTPPの真相が明らかになるにつれ、反対の世論
が高まっており、次期大統領候補はTPP反対を表明。大統領
が交替したら、承認するかどうかわからない情勢。

〇 アメリカのこれからのスケジュール

フロマン氏は10月7日、30日以内に交渉テキストを公表するべく
作業を進めていると発言。

90日ルール(アメリカでは大統領が協定文書に署名する
90日前にその意向を議会に伝えることになっている)を経て、
大統領が署名するのは最短でも2月ごろになるだろう。

その後議会の審議に入る。

〇 アメリカの反応

ア メリカの次期大統領有力候補者-共和党のドナルド・
トランプ、民主党のヒラリー・クリントン、バーニー・
サンダースもすべてTPP反対。

また、上院財政委員会のハッチ委員長も今回の合意を
「ひどく不満足な内容」とする声明を発表。

製薬業界の利益を代弁するハッチ氏は、医薬品のデータ
保護期間を12年にすることを要求しており、8年では
不満だということ。

ハッチ氏は米 議会上下両院で過半数を占める共和党幹部
であり、TPP推進派。そのハッチ氏が不満を表明した
ことは大きい。

民主党、共和党、どちらにもTPP反対の議員がいる状態。
そう簡単に議会を通るとは思えない。

〇 再協議の可能性も

「為替条項」(輸出に有利にするため自国の通貨安を誘導
するような金融政策をすることはけしからん、として、
そのような国に対し制裁措置⦅削減・撤廃した関税を元に戻す
など⦆を取ることを定める条項)をTPPの中に盛り込むよう、
以前から主張している議員がいる。

目的は現在円安政策を取る日本が、輸出で有利になるのを妨害
すること。為替条項の話はTPA(貿易促進権限法、6月に
成立)審議の中で決着できず、宙ぶらりんのままになっており、
TPP審議の中でそれが蒸し返されて紛糾する可能性は高い。

米国のNGOは、米国議会の承認は得らず、再協議になる
可能性は否定できない、と見ている。

〇 アメリカ議会を通らなければ発効しない

アトランタ閣僚会合で「すべての国が2年以内に議会承認など
の国内手続きを終えられない場合、GDPの合計が85%以上を
占める6カ国以上が合意すれば、発効できる」ことが決定。

これにより、アメリカ、日本のどちらか1国でも批准しなければ、
TPPが発効しないことになった。

(日本の国会議員が、いつの時点から 「2年以内」なのか、
政府に問いただしたが、明確な答えは得られなかった
⦅おそらく協定文書の発表からでは?⦆)

アメリカと日本それぞれで、反対派議員の活躍が期待される。

〇日米平行協議に要注意

外務省の管轄で、内容がほとんど明らか にされていない。
国会の承認を経ないで、日米政府間のレターのやり取りだけで
決まっていく。

既に20~30ものレター のやり取りがされていると言われており、
医薬品や医療機器の価格決定メカニズム(にアメリカ企業が
口出しをしてくること)なども含まれると噂されている。

甘利氏はTPP本体が発効しなければ、二国間協議で合意した
内容も発効することはない、と明言しているが、それを信用する
ことはできない。

〇日本の国会ではこれからどうする

TPP反対派の国会議員、篠原孝氏は以 下のように主張。

「すべてをグローバル・スタンダードで統一することを要求する
TPP協定なのだから、文書の公表もすべて日米同時でなければ
おかしい。アメリカで英文の協定文書が発表されると同時に日本
でも日本語の文書が発表されなければならない。

米韓FTAのときには韓国語の文書がなかなか出来あがらなかった
ため、韓国の国会議員は国会での採決までに韓国語の文書を読む
時間が2日ほどしかなかった。

TPPもそんな状態で批准を迫られるのは絶対に困る。早く文書を
出さなければ国会審議には応じない。

また、党議拘束にも反対したい。イギリスでは(?)党議拘束を
かけるのは2割くらいで、国際協定などの重要な法案のときには
党議拘束をかけてはいけない、という決まりがある。日本でも
そうすべき。」

〇 勝負はこれから

「大筋合意」でもう決まってしまったんだ、などと落胆するの は
まだまだ早い。勝負はこれからなんだ、みんなでTPPをつぶす
べくがんばりましょう! という首藤氏の激励の言葉で報告会
は締めくくられました。

(ひぇ~、まだまだ続くのか~。いい加減、もう普通の女の子
(?おばさん?)に戻りたいわ、と思う今日この頃のわたしですが、
まだまだ先は長そうです。いやはや)

アトランタに実際に行って報告してくださった方々は以下のとおり。

佐々木隆博氏(衆議院議員、民主党)、福島伸享氏(衆議院議 員、
民主党)、玉木雄一郎氏(衆議院議員、民主党)、山田雅彦氏
(TPP阻止国民会議副代表世話人、元農水大臣)、首藤信彦氏
(TPP阻止国民会議事務局長)、三雲崇正氏(弁護士、
TPP交渉差止・違憲訴訟の会弁護団)、内田聖子氏(アジア
太平洋資料センター事務局長)