僕は腹が減ったので、漬けまぐろ丼を作っていた。
まぐろを、しょうゆとみりんと酒と砂糖と生姜とにんにくで漬けていた。
そんで、熱々のご飯にしばらく漬けたまぐろをのせて、卵をインして、ごま油をひとかけして、海苔をまぶそうと思っていた。
はっきり言って、これでマズイものを作れるわけがない。
もう間違いなく、確実に、美味しい漬けまぐろ丼が食べれると思った。
だけど、事件は起こった。
家に大葉が生けてあったんです。
キッチンのテーブルの上に、水の入ったコップに、茎ごと大葉がささっていた。一枚どころの騒ぎではない。茎に何枚も大葉がある。俺の普段使いのコップだったが、まあそこはよかった。
僕は一瞬言葉が出なかった。
「、、、は?」
やっとこさ出た言葉が、大葉への疑問だった。
なぜ、大葉が家に?
母が言う。
「野菜作ってる人にもらったの。」
僕は事態を把握した。そして、喜んだ。
なぜなら、今、僕が作っている漬けまぐろ丼に、さらなる成長を遂げさせてくれる必要な人材、いや、材料だからだ。
いや、もちろん、大葉に出会わなくても、僕は大変満足していたろう。
だけど、その満足していた自分に、さらなる歓喜を与えてくれた。
100%から、120%へ。
もう間違いなく、確実に、そしてさっぱりと、美味しく食べれることを期待した。
まぐろを漬けている間、風呂に入る。
頭がいい。まぐろを漬けているのを、待たなくていいんだから。
大葉を視界に入れてから、僕のテンションはいつもと違っていた。
今日もバイトだった。お盆だからクソ忙しかった。はっきり言ってクタクタだった。でも、僕はそんな疲れを忘れ、意気揚々としていた。
風呂から出る。着替えを済ませ、漬けまぐろ丼の儀式の最終段階に入る。
まずは、ご飯。実は炊いていた。もう美味しい感じに炊けていた。炊きたてのご飯。熱々ホカホカのご飯。少し大きめの丼に、いつもより気持ち多めに盛る。
ただし、盛りすぎないように。だって、この後、まぐろがくるんだから。
漬けておいたまぐろを冷蔵庫から出す。
よしよし、いい感じだぞ。
漬けたまぐろをご飯にのせる。
僕はドキドキしていた。わかりますかね?こういう時、ドキドキしませんか?緊張しやすいのかな、はあ。
卵を入れる。今回は黄身だけ。卵黄のみ。白身は別の日に使う。
卵黄ように、真ん中にくぼみを作ろうと思ったけど、めんどいからやめた。
案の定、丼の淵へと流れ落ちる。
続いて、大葉を茎から取り、さっと洗い、まぐろの上に、千切ってのせる。包丁で細かく切ろうと思ったけど、めんどいからやめた。
案の定、ぐちゃぐちゃになってしまった。
そんで、海苔をまぶす。海苔はほんと気持ちまぶすくらいでいいんだけど、めんどいから適当に取ったら、思ったより多く海苔を取り過ぎてしまう。千切ってまぶす。
案の定、海苔の面積ばかりになってしまった。
まあまあ、落ち着けよと。これは男の料理なんだ。見かけなんてどうでもいい。
卵が淵にあろうが、大葉がぐちゃぐちゃだろうが、海苔ばかりになろうが、胃に入っちまえば全部一緒。
むしろ、豪快なところがカッコイイだろ?と思いながら、最後のフィニッシュのごま油を手に取る。
ごま油って、かなり使えるやつ。ごま油かければ、大抵のものは美味しくなる。この香ばしさたまらん。
ごま油を丼にひとかけする。
そして、事件は起きる!!!
「ああっ!」
ドパッていう擬音が聞こえてきそうなくらい、ごま油が丼にかかる。
本来なら、ツーと細い線で一周できればいいものを、細い線ではなく、まだらに、ダラダラにかかってしまった。
海苔が油でグショグショになるのがわかる。
そう、ごま油をかけすぎてしまった。
最悪だった。
僕はなんて過ちを犯してしまったんだろう。
なにが豪快なところがカッコイイだろ?だ。バカか。
この過ちは何回目だ俺。結構やらかしてるだろう。ごま油は、オリーブオイルと違って、意外とドパドパ出るのだ。もっと慎重にいかなければいけなかったのだ。
本当に俺ってやつは!!
本当に!!
なんで!!
バカ!!
ああ!!
しかし、かけてしまったのは仕方ないので、まあとりあえず食べようと思う。
箸を手に取る。
海苔をかき分け、卵を割る。本来なら、卵は半分くらい食べてから割る派だが、事態がいつもと違ったため、早速割らせていただこうと思った。
しかし、海苔をかき分けようと思った時に気付く。
おや、、、意外と油は浸透していないようだ。
ふむふむ、なるほど💡
そうか、海苔のおかげで、油からご飯への浸水をガードしていたんだ!やるじゃないか!豪快さも、たまには役立つじゃないか!
早速、ごめんなさい🙇しながら、油でグショグショの海苔を捨てる。
そんで、卵を割る。卵黄がまぐろに絡みつく。
そして、
いざ、
尋常に、
参る!!
ごま油と!
卵黄と!
海苔と!
大葉と!
漬けまぐろと!
そして、熱々のご飯を!!
全てを合わさった最強の!!
俺たちの!!
思いを!!
美味い食べ物を!!
パクッ
もぐもぐ、、、
ふむ、、、、、
そっか〜〜
それは、確実に美味いはずだった。
僕はそう確信していた。
少しトラブルはあったものの、美味しく食べれるはずだった。
どうやらそれは確信ではなく、ただの過信だったようだ。
もちろん、不味くはない。だけど、美味い!ともならなかった。想像してたのは、美味い!という感動だった。
問題は、まぐろを漬ける時だろう。
僕は分量を気にせず、調味料を入れていた。
しょうゆ、みりん、酒、砂糖、にんにく、生姜を。
まず、しょうゆを入れすぎた。
そんで、漬けすぎた。普通に風呂入ってたから、長風呂しちゃってたから、味が濃くなりすぎてた。
しょっぱかった。
僕はまずくなるわけがないと過信してしまった。
その結果、大雑把に作ってしまったことにより、なんだかイマイチ、、な、料理を作ってしまった。
僕は大葉に助けられながら、しょっぱさを緩和した。もちろん完食したし、美味しかったといえば美味しかったけど、もっと美味しくいけたはずだった。もっと満足できたはずだった。
今回は俺の負け。料理はいつだって自分との戦い。
俺は自分に負けたんだ。
悔しいけど、反省するしかない。次にいかそう。次は完璧な漬けまぐろ丼を作ってやるぞ。
おわり