「ドンへさーん!…こっち、こっち!」
理工学部の校舎から中央の事務棟へ向かう大きな桜の木の下で、ふわっと顔を綻ばせたチャンミンが手を振った。
「……ごめん、ごめん!授業が長引いちゃってさ!」
「うん。…僕も今来たところです。」
さりげなく俺が気を遣わないように気を回すチャンミン。
クリクリの瞳に思わず触りたくなるようなホッペは相変わらず。
───ダメダメ!!……こんな邪な目で見てるなんて、ユノが知ったら後が怖い
「あれ??……あいつは?」
「んー?まだみたいですね。…実習だと延長しちゃうから。」
………じゃあ、座って待つか、って、ベンチに2人で腰掛ける。
座った途端、チャンミンの口から出るなまえは、───ユノ、ユノ、…ユノ。
「そろそろ涼しくなってきたのに、ユノってば夏服しか置いてないから今だにTシャツと短パンなんですよ。」とか
「僕の部屋、狭いのに…ユノが教科書まで持ち込むから床が抜けるんじゃないかって、ヒヤヒヤしちゃう。」とか。
────ユノはまったく自分ちに帰ってないって事だよな?
どうも俺が唯一チャンミンとユノの仲を応援する貴重な存在らしく、こうして惚けばかり聞かされてる訳だけど。
ただ今、絶賛彼女募集中の俺としてはちょっと辛い…。
頬を少し上気させながら、…怒ったような口調で文句ばかり言ってるけど……表情はトロントロンだから!
───分かってる?
ユノ、…って聞き慣れたなまえがチャンミンの口から出た途端、何とも甘い響きで…聞いてるこちらが恥ずかしくてたまんない、って事。
「……リヨンさん。遅いですね。」
そう呟きながら…あー、秋の匂いがしますね。って、両手をあげて伸びをするチャンミン。
……俺はさ、こんな目立つところに座っててユノに見つかんねーか、さっきからヒヤヒヤしてんだけど。
───リヨンはバイト先の子で、美人なのにサバサバしてるし、いかにも理系って感じでもないのにすごく優秀みたい。
夏休みが終わってすぐ、ダンスの練習に付いてきてたチャンミンといつものメンバーで歩いてたら偶然リヨンに会って。
「……ドンへさん。……さっきの…リヨンさん、ですよね。」って、コッソリ聞いてくるチャンミン。
どうも、教授の手伝いしてるときにリヨンのレポートを読んで、いたく感動したらしい。
……それで、どうしても話がしたい、というチャンミンの希望でランチに待ち合わせするのもこれで何度目?
チャンミンがすっげー純粋な気持ちで、そのレポートの、俺にはチンプンカンプンな内容について討論したいのは分かる…分かるんだけど……ユノがね……純粋に受け止めてくれるかが心配。
あいつ…チャンミンと会ってからは嫉妬の塊みたいになってるからなぁ。
前の、…上手に女遊びを繰り返すユノを思い出して思わず顔がにやけてしまった俺。