逢いたくて逢いたくて(75)ーLー~リヨン篇~ | えりんぎのブログ






───入学して初めての夏。


環境の変化への不安と…自分で望んだ学部へのストレスと。


まだ長い梅雨が明けきらなくて、じとじとした空気のように沈んだ自分。


ふと、偶然通りすがった公園で背中を向けてしゃがみこむ男の人。


……気分でも悪いのだろうか?

見てしまった以上、無視して通り過ぎるのははばかられて……。


「………あの?……気分でも…?」


────「……ん?」

肩越しにチラッとこちらを振り返った人


……あ、大学で見かけたこと、あるかも。


にこって笑ったその人が…見て?って地面を指差した。


────アリ?


そこには、…長い長いアリの行列。

砂のようなパン屑のようなものを担いでひたすら長い行列。

先頭が小さな穴に吸い込まれていく。

後方をみると……おそらく、間抜けなアリが道を間違えた?

目的の方向を誤って円を描くようにクルクル回るアリの集団。

「……あっ………。」

「…な?…食い物抱えて、クルクル回って、…祭りしてるみたいじゃね?」


……楽しそうにアリを見つめる整った綺麗な横顔。


「………あのね。…アリって、足跡フェロモンっていうのを辿ってあるくの。…多分、一匹がなぜか、…道を誤っちゃったのね。」


「……後ろのアリの足跡フェロモンに続こうとして円になっちゃったみたい。…こうなっちゃうと…このアリ達は力尽きるまで延々と回り続けるしかないのよ。」


────さらに沈んだ気分で、…この脳天気にひとり梅雨明けのような笑顔の人に呟いた。


「…え?……マジで?」


……そう。このアリ達は巣にもどる事も出来ずにずっとずっと回り続けるの。



「…っだよ!!」


手元にあった細い枝を手にとって、回り続けるアリの進行方向を正そうと必死に先頭アリの方向に溝を掘ったり、アリをそっとなぞったり。


────どれくらいたった?


玉のような汗が額から頬を伝って、ポタリと落ちた。


…………きれい、…と、なぜか見惚れてしまって、無意識にその汗の道筋に手が伸びたその時。


「ぅわっ…!…やったぁっ!」


見ると、…円が崩れて、…微かに残る本来の足跡フェロモンを辿る道に一本の列


嬉しそうに…愛おしそうに…微笑む人。


「……よ、良かったね。…まさか、道を戻すなんて…出来るとは思わなかった。」


思わずついた感想に。


「……ん。成せばなる。なさねば成らぬ。だな。……これ、じいちゃんの口癖。」


そういって笑ったその人があまりにも眩しくて……


切ないほどの気持ちを知った。


─────────ユノさん。