~ユノside~
「……あ。」
赤く火照った顔を隠すように、斜めに座った椅子から身体を捩る俺と、そんな俺を上から抱きしめて離さない女。
「…や////、…ちがっ!…こら、…離せよっ!」
バチッ、と固まった奴と目があって、焦って引きはがそうとするけど。
「…お、お邪魔しました。」
呆気なくクルッと背を向け行ってしまった。
───なんだよ?
前みたいに、…出ていけ!って追い出さねぇのかよ?
今日は喋りたくない!──って、あのメモに書いてよこしたり、…感情をぶつけてこねぇの?
そうしたら、……この状況の言い訳が出来るのに。
何も言わず、のみこまれちゃったらさ、…俺だって、何も言えねぇだろ?
「…チャンミンさん、…今日は怒んなかったね。」
イタズラっぽい微笑みを浮かべて、更に身体を寄せてくる女。
「…でも、最近のチャンミンさん、…女優さんも顔負けの美しさだって、評判なのよ?私のモデル仲間もみんな食事に誘いたがってる。」
──アイツが最近、更に磨きがかかったようにきれいになったのは知ってる。
毎日一緒にいても、分かるくらい。
「…ふ、ん。」
「…ねぇ?…ユノからチャンミンさんを誘ってもらうことって出来ないの?」
俺の膝に座り込んだソイツは、さっきまでユノ、ユノ言ってたのに、今度はチャンミンかよ?ってくらいのおねだり。
「…んなの、…出来るかよ。」
「え~?…仲悪いの?」
なんて、…痛いところつかれて。
立ち上がると同時にその女の背中を押して楽屋のドアから追い出した。
「…じゃあな、…もう来んなよ?」
「え~!!ひっど~~いっ!!」
って言ってる鼻の先でバタンッとドアを閉める。
────コンコン。
ドンジュさんからの電話で、アイツと一緒にいるから、俺は楽屋で待機するように言われていた。
いつもなぜか持ち歩いている、アイツに貰った真っ赤な羽のメモ帳。
今こそ使う時じゃねぇの?
──でも、…なんて書く?
また、やっちゃってごめん。とか?
それじゃあ、意味ねぇよ。
勝手に来て、勝手に抱きついてきただけだから。とか?
……言い訳がましいな。
メモを前に、頭を悩ませながら、ペンでトントンやっちゃって、…ただのゴマ模様だ。
────コンコンコン。
しつこいなっ、…って出たら、ADの若い兄ちゃん。
「…あ、…悪い。…今、チャンミンいないけど?」
なかなかドアを開けなかった謝罪をしつつ、用件を聞く。
「…あ、すみません。実はチャンミンさんに先ほど渡した小道具に変更がありまして。」
「休憩の間に直したいので、お借りできないかな、と思いまして。」
───それって、楽屋に戻ってすぐ、バッグに突っ込んでたやつ?
「…ああ。ちょっと、探してみるから、…待ってて?」
ガサガサと怒られそうだけど、適当にアイツのバッグをひっくり返して。
「…お?これじゃね?」
取り出そうとした、脇の小さなポケットにブルーの羽。
何やら文字が見えて。
駄目だって、思いながら、…我慢できず、スッと自分のポケットに入れた。
「あ、…それです!助かりました。」
後ろからの声に、慌ててその目的の物を掴んで振り向いた。
ひとりになって、…そっと、ポケットから取りだした羽。
《ちゃんと、話がしたい。》
たったひとこと。
これはさ、……俺に?って思っていいんだよな?