~チャミンside~
新曲に先がけてのプロモで、メディアに顔を出すことが多くなり、それに比例して収録スタジオでのいわゆる出待ち。も増える。
スタジオに到着することをスタジオ側の警備責任者に連絡してるのにもかかわらず、警備が手薄の時は最悪。
大勢の押し寄せるファンの子達。
嬉しい半面、…恐ろしいくらいの熱狂に、我先にとぐいぐい出てくる強引さに、…足が竦んで動けなくなりそうだ。
─────「…チャンミン!!」
スッと伸ばされた手。
こんなに大勢の中でも、あなただけ色がついたように見分けられる。
戸惑いがちに伸ばした手を、ぐいっと引いて自分の背中に隠すように。
「…立ち止まるな。」
目の前の人垣をゆっくり掻き分けながら、ずんずん歩いていくあなたの背中で、こんなにも安心している自分がいる。
繋いだままの手。
そこだけに意識が集中してしまって、…良かった、…この人混みの中では、僕のほんのり赤く緩んでしまう頬もバレずにすみそうだ。
「…なぁ、…俺にさ、渡すもの…ねぇの?」
玄関前を通り過ぎる僕に、…どさくさに紛れて耳打ち。
「……え?」
何のことか、…不思議顔の僕に、…はぁ、ってひとつため息ついて。
「…まぁ、いいさ。…勝手に受け取るから。」
ニッ、と笑って、クルッと背を向け、警備責任者の人を見つけて行ってしまった。
その背中を見た途端、あ、…、って心当たり。
走るようにひとり、楽屋に入ってバッグをひっくり返した。
────あの、…独り言メモ///////!!
なんなんだよ?///
勝手に受け取るから、…とか。
そんな言い方されたら、期待しちゃうじゃないか。
────後悔しない、って決めたから。
あなたが未だに戸惑った表情を見せても、…あの日、あんなに近かった距離を2歩も3歩も離されたとしても。
──つい昨日、モデルの子とイチャイチャしてたばっかだろ?
言ってる事とやってる事がばらばらで、振り回されそうになる自分を必死に抑える。
「…次はもっとしっかり警備体制とってもらうよう、頼んでおいたから。」
楽屋に入るなり、そう言って僕の顔を覗き込む。
「あれじゃあ、…ケガ人がでる。」
スッと僕の肩に手を置いて。
「…おまえは、…大丈夫だったか?」
その瞳が優しくて、思わず肩に置かれた手に自分のそれを重ねてしまいそうで。
「…………大丈夫です。」
そっと、…その手を振り払った。
あなたの瞳が揺れた気がしたけど、…多分それは、…気のせいだから。
数日後、…ドンジュさんに見せられた写真。
──それは、あのファンの子達で溢れた日の。
前を歩くあなたに、…その後ろを安心したように付いていく僕の、…2人の写真。
「……これが、…なにか?」
「ん。…あのさ、この写真、…多分いつものストーカーだと思う。」
「ユノを許さない、ってメッセージと一緒に事務所のポストに直接入ってた。」
「…見る人が見たら、…妖しい雰囲気の2人に見えるのかもな?…俺からしたらチャンチャラおかしいけど。」
僕が重く受け取らないよう、冗談混じりに言うジョンヒョンさん。
「…まぁ、ユノもちょっと気をつけろ、って事で。」
「…ふん。願ったり叶ったりだな。…コイツに向く狂気が少しでも俺に向けば、…いい。」
──────僕の誕生日までは半月をきっていた。