~ドンジュside~
「─────で?」
バタンッとドアが閉まるのを確認すると、こちらに向き直ってドカッと向かいのイスに座る。
勘のいい奴だから、俺が言いたいことを察してるんだろうな?
「…あのさ、最初にユノの事務所で会った時のこと、…覚えてるか?」
切れ長の瞳は俺を見据えたまま…。
キュッと結んだ形のいい唇。
整った顔は真剣な表情であればあるほど、迫力が増して、…ちょっと恐いくらいだ。
「チャンミンは男だけど、そこらへんの女性よりキレイな男で、って、…言ったよな?」
「……おまえは、…笑い飛ばした。」
「いくらキレイでも男と遊ぶ趣味はない、と。…覚えてる?」
スッと視線を外して、…頬杖をついたユノ。
「─────覚えてるよ。」
少し口を尖らせて。
嫌な予感が当たった、…って顔だな?
「おまえがさ、…今までの契約相手の女優やアイドルとことごとく噂になってるのは知ってる。」
「…おまえが、本気で相手にしてない、って事も。」
「…ドンジュさん。はっきり言えば?」
真っすぐに俺を見る目には少しも悪びれたところなんかなくて。
「…女優さん達には、ユノとのスキャンダルが多少なりともメリットがあるって、知ってるだろ?」
───さぁ?…とでも言うように、肩をすくめるユノ。
最近の出待ちファンの多さ。
その中に少なからずユノのファンがいるのも事実で。
本来なら裏方のSPにファンがつくほどの美貌。
「…ユノとのスキャンダルは、話題性もあるし、…新人の女優なら格もあがる、ってことだよな?」
これは本人の意図するところではないし、相手事務所の策略が見え隠れして、ユノに言っても筋違いなんだろうけど。
「…でもさ、………駄目だよ。」
ふっ、とユノと視線が重なる。
「…男は、……チャンミンは駄目だ。」
お互い目をそらさず、無言のまま。
「……分かってる。」
ひとことだけ、静かに、…俺を真っすぐ見て言う。
「…この仕事もあと数日だ。…今、チャンミンはかなりナーバスになってるから、…いろいろと自分の気持ちを誤解しやすいと思うんだよ。」
「…あいつは育った環境の割には、純粋で、…素直なんだ。」
「おまえのお遊びに、…あいつだけは巻き込んでくれるな。」
キツい言い方してしまったけど、ユノなら俺の立場も分かってくれるだろう。
怯まずユノから目を離さない俺を、真っすぐ見て。
「…何もかも、全部分かってる。」
初めて見るユノの思いつめた表情。
───もういい?
そう言って椅子から立ち上がり、背中をむけ、部屋を出ていく後ろ姿。
ひどく傷つけてしまったような、…そんな思いに囚われ、しばらく動けない俺がいた。