~チャンミンside~
「チャンミンさぁ、・・もしかして、そいつの事今でも好きで、忘れられない、とか?」
────────ユノ。
酷く傷ついた表情が、───忘れられない。
土曜日は約束通りバイトに入った。
裏口の扉を開けたら目の前にドンへさんがいて、僕を見るなり苦笑い。
僕の肩をポンと、
「チャンミンにさぁ、言うことじゃないと思うんだけど、・・あいつ、ちょっと見てらんない。」
なんて返したらいいのか、・・・
僕の顔を覗きこんで、
「ああ、・・おまえの顔も酷いね。・・ったく、おまえらしょーもねぇなぁ。」
髪をガシガシされて、逃げようとしたところを引き寄せられた耳元で、例の許嫁の子が友達を連れてきてる、と教えられた。
「・・でさ、たった今、ユノを電話で呼んだんだよね。」
────大丈夫?って聞いてくるから、大丈夫もなにも、これからこんな場面は何度もあるんだろうし。
「ドンへさん、何言ってんの?変なの。」って、笑ってごまかした。
出来ればその無邪気な高校生3人組とは関わらないようにしたかったのに、店に出た途端、許嫁さんに見つかってしまい、キャーキャーと騒ぎながら僕を手招きする。
「い、いらっしゃいませ。」
「ふふっ。今日来たら会えるかなぁ、って、友達連れて来ちゃいました。」
本当に無邪気で怖いもの知らずで、・・若いってすごい、とちょっと引き気味に、
「え、っと。ユノの許嫁なんだよね?」
そう聞いたら、プクッと頬を膨らませて。
「だってぇ、ユノさん、スッゴイ好きな人がいるからなかった事にして、とかさ、速攻で言うんだもん。」
膨れっ面しても可愛いだけのその子の話に、さらに胸が痛くなる。
イリヤ兄さんとは何でもない、って、言い訳をしたくなる。
しばらくして現れたユノは休みなのか、ざっくりとしたセーターにダメージジーンズというラフな格好で。
ドンへさんに軽く声をかけた後、女子高生の中へ何の躊躇もなく入っていった。
チラッとも僕を見ようとしないのは予想してたけど。
実際にそうなってみると空気が重く澱んだように息苦しくて、視線の端にうつるユノの笑った顔や、女子高生の子たちの楽しそうな笑い声に、早くこの場から逃れる事ばかり願っていた。
「じゃあな、ドンへ。」
来たときと同じようにドンへさんに軽く手を振った後、彼女たちの後から店を出ていくユノ。
ドンへさんが苦笑いをしつつ、チラッと僕に視線を向けたけど、ユノの視線は頑なに僕に重なる事はなかった。
「久しぶりだし、忙しかったから、・・疲れたろ?」
はぁ、と大きくため息をついた僕の隣。
ポンポンと背中を叩かれて、──後は俺ひとりでポーター出来るからさ、先に帰りな?って言われて。
悪いな、って思いつつも本当にくたくたで、ドンへさんのお言葉に甘えてしまおうと、
「ドンへさん、・・ありがと。」
女子高生には適わないけど、僕なりにかわいらしく言ってみた。
「あ~、///チャンミンって、俺には超素直なのになぁ。」
なんて言ってくるけど、・・何の事だか。
さっさと着替えて、ドンへさんに挨拶をして、───今日は、自分ちに帰ろうか?バイトとは言ったけど、イリヤ兄さんちに帰るなんて約束してないし、それにこんな時間だし。
いつもより重く感じる裏口のドアをグッと押して、スーッと通った夜風が気持ちいい。
一歩踏みだした途端、ガシッと、・・・
急に掴まれた腕にびっくりして振り向いた先には、─────ユノ。
「帰さねーよ。」