空洞 | Hack or Fuck ?

Hack or Fuck ?

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photo credit: FracturedPixel via photopin cc

前回の記事で「引き寄せの法則」について書いたのだが、何となく引っかかる点もなくはないのでそのことについてボーッと考えていたら、ふと長渕剛の「西新宿の親父の唄」の歌詞を思い出した。

古いか新しいかなんてまぬけな者たちの言い草だった
俺か俺じゃねえかで ただ命がけだった



俺か俺じゃねえか…これこそ人間の一大事である。あらゆる願望の源はこの問いに尽きる。いくら安楽な暮らしであっても「私」から離れることは不幸なことだ。

で、「西新宿の親父の唄」だが、その中にこういう歌詞もある。

「日本も今じゃクラゲになっちまった」って笑ってた



ここでおれの記憶は突如、金子光晴に飛ぶ。

「くらげの唄」という詩だ。

ゆられ、ゆられ
もまれてもまれて
そのうちに、僕は
こんなに透きとほってきた

だが、ゆられるのは、らくなことではないよ。

外からも透いてみえるだろ。ほら。
僕の消化器のなかには
毛の禿びた歯刷子が一本、
それに、黄ろい水が少量。

心なんてきたならしいものは
あるもんかい。いまごろまで。
はらわたもろとも
波がさらっていった。

僕?僕とはね、
からっぽのことなのさ。
からっぽが波にゆられ、
また、波にゆりかへされ。

しをれたかとおもふと、
ふぢむらさきにひらき、
夜は、夜で
ランプをともし

いや、ゆられてゐるのは、ほんたうは
からだを失くしたこころだけなんだ
こころをつつんでゐた
うすいオブラートなのだ。

いやいや、こんなにからっぽになるまで
ゆられ、ゆられ
もまれ、もまれた苦しさの
疲れの影にすぎないのだ!


まさにくらげのようなつかみどころのない詩だ。結局何が揺れてるんだと言いたくなる。だが無性に惹かれる。つかみどころのない詩に逆につかまれる。だんだんゆらゆらしてくる。

頭の中で、ゆらゆら帝国の「空洞です」が流れ出す。

ぼくの心をあなたは奪い去った
俺は空洞 でかい空洞
全て残らずあなたは奪い去った
俺は空洞 面白い
バカな子どもが ふざけて駆け抜ける
俺は空洞 でかい空洞
いいよ くぐりぬけてみな 穴の中
どうぞ 空洞

なぜか町には大事なものがない
それはムード 甘いムード
意味を求めて無意味なものがない
それはムード とろけそうな
入り組んだ路地であなたに出会いたい
それはムード 甘いムード
誰か 味見をしてみな 踊りたい
さあどうぞ ムード

ぼくの心をあなたは奪い去った
俺は空洞 でかい空洞
全て残らずあなたは奪い去った
俺は空洞 面白い
バカな子どもが ふざけて駆け抜ける
俺は空洞 でかい空洞
いいよ くぐりぬけてみな 穴の中
さあどうぞ 空洞
空洞



聴いているうちに自分も空洞になったような気がしてくる。空洞となった自分の中を「バカな子ども」になったもう一人の自分が駆け抜けていくのが見えるような気がしてくる。

その子の顔は少し緊張している様子だ。ちょっとした探検家気分だ。意味で塗り固められた街のはずれにある入り組んだ路地を抜け、今ではほとんど誰も使わなくなった暗く長いトンネルを駆け抜けていく。少しずつ目が慣れてくる。少しずつ色んなものが見えてくる。

おれという空洞をバカな子どものおれが手ぶらで駆け抜けていく。