夏はあっという間に過ぎ去り、夜になると涼しい風が吹くようになった。新学期の頃は、香篠君の彼女だといって廊下でよく振り返られもしたけれど、今ではそんなことも起こらない。一緒にお昼ご飯を食べたりはするけれど、あまり二人でちゃんとしたデートもしないうちに学園祭の準備は更に慌ただしさを増して、それどころではなくなってしまった。
けれどそれより気にかかってしまっていることがある。カレンダーを見てため息をつく。気が付けばもうずいぶんと千歳と会っていない。
本当は寂しいなどと思ってはいけないのだ。私は香篠君の恋人になったのだし、今千歳に会いたいと思ってしまっては、本当に当てつけで香篠君と付き合っていることになってしまうから。
それなのに、会いたい。避けているのは私の方なのに、会いたい。
「あーあ。学園祭早く終わらないかな。やりたいことがいっぱいあるのに」
ミシンを一時停止させた香篠君が伸びをする。
「例えば?」
私が尋ねると、彼は大真面目な顔で言った。
「るみとデート」
「ちょっと、部活中にいちゃつかないでよ」
案の定切羽詰まった先輩からいらいらした声が飛ぶ。私は香篠君を軽く睨むと、ミシンを再開させた。
「どこに行きたい?」
それなのに、ミシンの音に隠れて凝りもせずに聞いてくる。
「映画とか?」
「超適当に答えてるでしょ。夏に一回行ったじゃん。…それ以来どこにも出かけてないし」
私は聞こえないふりをした。
「旅行、行こうか」
けれど、彼が続けた言葉に思わずミシンを止める。
「は?」
「旅行。ちょっと近場に」
「冗談はやめてよ」
「冗談じゃないよ。土日で行けるって」
本当に全く冗談などではない顔で彼が続けるので、私は思わず目を逸らした。
「何言ってるのよ、まだ16歳のくせに」
「15歳、だよ」
香篠君は私の言葉にムッとしたように答え、自分の言った15という数字にも、また腹を立てたようだった。
「るみと2つ違うだけだろ。だいだい、いい加減彼氏の誕生日くらい覚えろよ」
思わず言葉に詰まる。即座に私と2つ違いだといった彼は、きっと私の誕生日を覚えていて、だから私がもう既に17歳だということを知っていたのだろう。
「ごめん、いつだっけ?いて座なのは覚えているんだけど」
言い訳めいたものを言うと、香篠君はあきれたような顔をした。けれど、それでもその表情から怒りが薄れたので、ほっとする。
「12月17日。そもそもいて座の時期はまだまだだよ」
「ごめん、あんまり占いって見ないから」
「だろうね」
言い捨てるようにそう呟いて、彼は手元に視線を戻した。その目が見たことのない冷ややかな色を帯びていたので、少し怖くなった。
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