「今日は、購買じゃないんだね」
遠慮がちに話しかけると、香篠君はちょっと気まずそうに笑った。
「購買で買ってたら、るみのこと捕まえられないかもしれないでしょ。だから、朝コンビニ寄って来た」
「…別に、逃げたりしないのに」
「うん、でもちょっと怖かったから」
そう言って香篠君は視線をあげた。
「昨日、ごめんね?なんか焦ったっていうか、ちょっといらいらしてたっていうか」
がぶりとおにぎりを齧る。
「どうしたってるみより年上にはなれないし、デートはできないしで、うん、焦っちゃった。ごめん」
横目でちらりと窺われて、恥ずかしさできゅっと口を引き結んだ。
「こっちこそ、ごめん。誕生日とか、…旅行のこと、とか」
香篠君は鼻の頭を触りながら笑う。
「あー、旅行もね、焦ってあんなこと言って、ごめん。まだ早いよな」
そんなことない、とは言えなくて俯いた。唐突に昨日のキスを思い出す。その先は無理だ、と思ってしまう。
「学園祭終わったら、どこかデート行こう。映画でもいいよ。でも、いっぱいデートしたい」
優しく笑う彼にようやく頷く。
「あー、良かった仲直りできて。朝からずっと緊張してたんだ」
彼はにっこりと笑って今度はコッペパンを取り出した。ジャムとマーガリンの両方が挟まっているもの。
「お昼、それだけ?」
「うん。帰りまでに腹減っちゃうかな。まあ、仕方ないけど」
パンに齧り付く彼に弁当を差し出す。
「おかず、食べない?それだけじゃ、バランス悪いし」
香篠君はじっとそれを見つめて感動したように呟く。
「るみの手料理」
「違う、おばあちゃんの」
大げさに肩を落としてみせて、けれど、ありがとうと言って彼は卵焼きをつまんだ。
「美味しい。おばあちゃんに伝えといて」
「喜ぶよ、きっと。他にも食べたら?」
うーん、と唸って彼は生意気そうに笑った。
「今度、るみが作ったの食べたい」
「無理!」
思わずそう言ってしまって、一瞬で反省する。こういうところが良くないのは、自分でもよく分かっているのに。
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