「春海ちゃん」
声をかけられ振り向くと、どこか記憶にひっかかる男の人が手を振っていた。リクルートスーツに黒縁の眼鏡。誰だろうか。記憶を辿っているうちに、彼が近づいてきた。
「覚えてないかな?西並だよ。真野の友達」
かちりとピースがはまる。
「ああ!」
もう1年以上前になるのだろうか。その記憶力の良さと、いきなり声をかけてくる図々しさに自然と警戒心がおこる。
それを感じ取ったのだろうか。彼は苦笑した。
「そんな顔しないでよ。ちょっと懐かしくって声かけちゃっただけだしさ」
「すみません」
「まあいいや」
彼はにっこりと笑った。少し、胡散臭い笑顔。
「お茶、付き合ってくれない?次の会社行くまでに時間余ってるんだよね」
「就活ですか」
「うん。真野もやってるだろ?」
私は一瞬言葉に詰まった。
「最近会ってないから…」
「まじで?」
彼は目を丸くした。
「そうなんだ?へえ、意外」
なぜそんなことを言うのか分からなかったが、どうせ暇だったので、彼と一緒にチェーンのコーヒーショップに入る。
ココアを買ってもらって席に着くと、ホットコーヒーを持った彼がからかうように言った。
「ココア、可愛いね。しれっとブラック飲むタイプだと思ってた」
「コーヒー、飲めないんです」
むっとして答えるとにこにこと笑われる。
「いいんだよ、別に。美味しいと思えないものは飲まなくたってさ」
なんだかその言い方が大人みたいで、私は黙ってココアに口を付けた。甘く、慣れた味。
「西並さんは、こっちで就職されるんですか」
「そうだね、俺はもう地元って決めてる。真野はまだ迷ってるみたいだけど」
カップの傾きを見誤って舌をやけどする。千歳が、
「迷ってる…」
「聞いてない?東京行くのも考えてるみたいだけど」
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