年越しの準備も終わって手持ち無沙汰だったので、コンビニへ雑誌を買いに家を出た。
大晦日の町は静かで、どこか違うところに来てしまったようだ。いつものコンビニに入り、見慣れた顔の店員がいるのを見つけて、ほっとした気持ちになる。
なるべく分厚いファッション雑誌を手に取ってレジに並ぶ。レジの横にはポチ袋が並べられていた。
店を出てマフラーに顔をうずめる。寒い。雪こそ降らなかったけれど、もしかしたら今夜は降るかもしれない。明日の元旦も、更に言うなら三が日は特に出かける予定もないけれど。遠影家は年末年始に尋ねる場所も、尋ねてくる人もいない。
鍵を開けて玄関を開ける。と、そこに立っていた人を見て、思わず小さく声を上げた。
「お、おかえり」
なんでもない風に言った千歳に、反射的にただいま、と答える。
「なんでいるの。帰省は…あ」
言いかけたところで、今年の初めごろに千歳の祖父が亡くなったことを思い出した。毎年真野家が帰省していた田舎は、もう無い。
「ん、まあ今年から集まりも無くなったから。親父とお袋が二人で温泉行った」
早く上がりなよ、とどちらの家なのか分からない台詞を言われて、私は慌ててブーツを脱ぐ。
「春海、帰ってきたなら夕飯の支度手伝ってちょうだい」
リビングに入ると、台所と忙しなく行き来する祖母に声をかけられる。返事をして彼女の横に立った。
「そのもずく、小皿に分けてちょうだい」
「分かった」
紅白が始まるまでに夕飯が終わっていないと、祖父が不機嫌になるのだ。4つ出された小皿を見て、千歳が今日うちで夕飯を食べていくのだと確信する。
「なんで千歳うちにいるの」
「鈴子さんと正利さん旅行に行っちゃって一人だって言うから。一人ぼっちで年越しなんて可哀想でしょ」
「なんで一緒に行かなかったのかな」
祖母は魚をグリルから取り出しながら答えた。
「千歳君にも色々あるんでしょ。親に気を使ったのかもしれないしね」
「ふうん」
「ほら、毎年正利さんの実家で鈴子さんは苦労してたみたいだから。夫婦水入らずにしてあげたかったんじゃないの」
「そうなんだ」
「そうよ。春海には言わないけど、結構鈴子さん苦労してるんだから」
私は鈴子さんの笑顔を思い出す。千歳のお母さん、以外のポジションを想像できない人。
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