月下美人 | better than better

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彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

  あれは二月、会社の帰り道。凍るように硬く冷えた夜。
  僕は、君を、見つけた。

  カーテンを細く開け、双眼鏡ごしに外を見る。向かいのアパートのベランダ。
  今日は会えるだろうか。期待と、期待してしまう自分への嫌悪がせめぎあう。
 男がガラス戸を開け、何かを蹴り出した。 君だ。僕は身を固くする。今日も君は泣いている。君の後ろで非情にもガラス戸は閉められ、カーテンで光さえ遮られてしまう。
  ああ、今日もぶたれたんだね。僕が思うに、その男とは別れた方がいい。今月はもう五回目じゃないか。そんなに泣くのに、どうして君はその部屋から出て行かない?
  君は諦めたようにベランダにうずくまる。しばらくすれば男の機嫌も直って、戸が開けられるだろう。それが10分後か3時間後かは分からないけれど。でも大丈夫。その間は僕が一緒にいてあげる。

  初めて君を見つけたあの日、空には満月が浮かんでいた。しんと冷えた静けさの中で、君が鼻をすする音だけが聞こえた。青白く光る素肌。ああそうだ、あの寒空の下、君はほとんど下着のような姿だった。
  それから僕がこの部屋に越して来るまでに、時間はかからなかった。だってそうだろう?君を淋しがらせてはいけないと思ったんだ。

  男が戸を開けて何か言った。君は俯き加減に部屋へと入っていく。今日は一時間くらいか。双眼鏡をおろして時計を見る。わりと、早かったね。
  早く君があの男を見限ってしまえばいいと思う。君は、とてもじゃないけれどまったく幸せそうには見えない。
  けれど、と誰もいなくなったベランダをぼんやりと見つめる。君がその部屋を出て行ってしまったら、 僕はどうやって夜を過ごせば良いのだろう。
  白く光るその姿は、今は無い。



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