「高野クンには彼を担当してもらうよ」
そう上司に紹介されたのは、綺麗な顔をした男の子だった。外国の血が混じっているのだろうか。真っ白な肌に茶色い瞳と髪。高い鼻の両脇にある瞳が瞬くと、長い睫毛が揺れた。非常に中性的な顔立ちだけれど、身体つきはしっかりとしていて、歳は16,7ほどだろうと見当をつけた。
「マネージャーを担当します、高野です。どうぞよろしく」
そう挨拶すると、彼は口を開いた。
「槇圭人です」
思わず目を見開いたのを覚えている。その形の良い唇から発せられた声は、完璧なソプラノだった。
どうやら彼は声変わりというものを迎えなかったらしい。身体は小柄ということもなく細身ながらもしっかりした男性の身体で、そのアンバランスさが奇妙でもあり、魅力的でもあった。
槇圭人はケイという名で歌手として売り出し始められた。ロシアの血が入っているその容姿と、女性よりも綺麗な歌声で、着実に人気を得ていった。まるで天使のようだ、とよく評される。ふわふわした可愛らしい意味ではなく、何かを告げに降臨した、神聖なもの。
「高野サン、助けて」
私の携帯に連絡が入ったのは、珍しいオフの日の朝だった。弱々しい声に慌てて駆けつけると、くしゃくしゃの髪の毛の彼がリビングでぼんやりとしていた。
「風邪ひいたっぽい。しんどい」
少し鼻声の彼に拍子抜けしたが、タレントは体が資本なので、早く治してもらわないと困る。何かして欲しいことある?と聞くと、何か食べたいと答えた。
冷蔵庫にはほとんど食材がなく、一度買い物に出てから雑炊を作る。女が出入りしていることはなさそうだ、とこんな時でも冷静に考えていた。
「食べられそう?」
うん、ぼちぼち。少しずつ食べ進める彼をなんとなく眺める。仕事をしていない圭人を見るのは久しぶりだな、とぼんやり思った。
彼はまだ子どもなのだ。仕事として歌を歌って、そつのない受け答えをして、こうして一人暮らしをしていてもまだ未成年の子ども。
「実家は北海道だっけ?」
ぽろりと何気無く聞くと、圭人はちょっと嫌そうな顔をして頷いた。
「そうだけど。なんなんすか、いきなり」
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